2019.12.3 07:24
文具大手のコクヨ(大阪市)がぺんてる(東京)への敵対的買収を表明して2週間が経過した。コクヨに反発するぺんてるは同業のプラス(同)に「ホワイトナイト(白馬の騎士)」として支援を要請。ぺんてる株主を囲い込もうとなりふり構わぬ攻防が繰り広げられており、泥仕合の様相を呈している。コクヨの株式の買い付け期限は12月15日までだが、早期決着を急ぐため9日までに申し込みをするよう要請している。
プラスと提携画策
「裏切り行為だ」。コクヨの黒田英邦社長は11月15日、東京都内で開かれた記者会見で、ぺんてるの対応に怒りをあらわにした。ぺんてる株を約37%保有する大株主のコクヨは、業務提携に向けた協議を本格化させようとした直後、ぺんてるがプラスとの資本業務提携を水面下で進めていることが差出人不明の密告で発覚。「青天の霹靂(へきれき)」(黒田氏)の行為にコクヨは態度を一変し、子会社化へかじを切った。
コクヨがぺんてるとの協業にこだわる背景には少子化などによる国内市場縮小への危機感がある。文具の売上高に占める海外比率は約2割で国内に依存している。「サインペン」に代表されるブランド力を持ち、120以上の国と地域で販売しているぺんてると手を組むことで高い相乗効果があると主張している。
ぺんてるの自主独立路線が狂い始めたのはお家騒動がきっかけだ。経営路線の対立をきっかけに社長を解任された創業家が2018年、投資会社の運営するファンドに株式を売却したことで市場に株式が出回り、資本の論理に振り回される格好となった。ぺんてるはコクヨの強引ともいえる提携に反発。コクヨが子会社化の方針を表明すると「一方的なもので容認できない」と抗議しプラスに駆け込んだ。
プラスははさみやオフィス家具などを手掛けておりコクヨと「PK戦争」とも言われる激しいシェア争いを繰り広げている。コクヨが1株当たり3500円(11月20日に3750円、29日に4200円にそれぞれ引き上げ)でぺんてる株の買い付けを始めたことから、プラスも自社で設立した合同会社を通じて同額での買い付けを始め、同業他社にも参画を呼び掛けるなど「コクヨ包囲網」を画策する。
明確なビジョン争点
ただ買収阻止も一筋縄ではいかなそうだ。コクヨは当初、約300人いるぺんてる株主を把握していなかったが、コクヨが東京地裁に開示を求める仮処分を申し立てたこともあり、ぺんてる側から住所、名前が記載された名簿を取得。今は「役員総出で株式の譲渡を働き掛けている」(コクヨ関係者)という。
ぺんてるは非上場のため株式の譲渡には取締役会の承認が必要だ。コクヨは株主から委任状も取得しており、現経営陣が承認しない場合は臨時株主総会でぺんてる経営陣を退陣させ、新経営陣に譲渡を承認させることも可能になる。コクヨ関係者によると、刷新後は、ぺんてる社内から新社長を選任することも視野に入れているという。
首都大学東京の松田千恵子教授(企業戦略)は「コクヨとプラスがぺんてる株主に対して明確なビジョンを説明できるかが争点になる。ただコクヨは既に筆頭株主として拒否権を行使でき、プラスがぺんてる株を取得するのは経済的合理性に欠ける」と指摘する。