訪日消費救う「夜遊びマネー」 日本人も楽しめる娯楽を“夜の市長”が案内

2020.1.23 07:00

 パブやバーでの飲食、演劇鑑賞など夜の経済活動「ナイトタイムエコノミー」が注目されている。先行する欧米諸国では「ナイトメイヤー」(夜の市長)も登場するなど、夜の街を楽しめる環境整備で消費や雇用につなげる動きが盛んだ。日本でも頭打ちとなっているインバウンド(訪日外国人客)の消費を伸ばそうと、都市ごとの取り組みが活発化している。(田村慶子)

 欧米から大きな後れ

 ナイトタイムエコノミーとは一般的に日没から日の出まで(午後6時~翌午前5時ごろ)の経済活動を指す。米ニューヨークでは午後8時以降に開演するショーやライブ、オランダの首都アムステルダムでは美術館や博物館の夜間活用、英ロンドンではパブ、ディナークルーズなど、欧米の各都市ではナイトライフを楽しむさまざまなコンテンツがある。

 夜間の経済規模は、ロンドンが間接的な波及効果も含めると年間約400億ポンド(約5兆7千億円)、雇用効果が約72万3千人に上る一方、日本ではインバウンドでにぎわう大阪府でも1次波及効果含め約1・9兆円(このうち大阪市が約1兆円)、雇用効果は約21万人にとどまる。このため、大阪観光局の溝畑宏理事長は「将来的には大阪全体で2兆円、3兆円に伸ばしたい」と意気込む。

 政府もこの分野を重視し、昨年12月20日に閣議決定された令和2年度予算案では夜間市場の創出に対して観光庁に10億円の新規予算を計上した。

 少ない定番の娯楽

 観光庁が発表した平成30年の「訪日外国人消費動向調査」によると、旅行消費額は過去最高の4兆5189億円を記録。だが、円安や中国人客の爆買いが一巡したことなどから、1人当たりの旅行支出は15万3029円と前年より0・6%減少し、訪日消費の頭打ちが懸念されている。

 消費の伸びしろや、特定の観光スポットが混雑する「オーバーツーリズム」の解消としても期待される夜間経済だが、訪日旅行でナイトライフに満足する外国人客はまだ少数だ。

 日本政策投資銀行と日本交通公社は昨年10月、12カ国・地域に住む海外旅行経験者を対象にした意向調査を発表。訪日旅行で満足したのは伝統的な日本料理や自然・風景の見物、温泉などが上位にランクインする一方、ナイトライフ体験は50の選択肢のうち32位だった。逆に不満な点では6位に入り、特にマレーシアや英国での不満度の高さが目立つ。「夜ならこれ、といった知名度のある定番の娯楽が少ない」(大手旅行会社)との声が上がる。

 JTB総合研究所の安藤勝久・主任研究員は「訪日客だけに焦点を合わせると逆に国内客には敬遠されてしまう」と指摘した上で、「成功例のある欧米では、ナイトライフを楽しむ現地の文化をたまたま外国人観光客が楽しむ構図がある。日本人が日常的に楽しめるコンテンツであることに加え、日本やその地域ならではの要素も必要」と話す。

 「夜の市長」活用も

 こうした中、東京や大阪でも取り組みが始まっている。東京都豊島区に都市観光ホテル「OMO(おも)5東京大塚」を30年5月に開業した星野リゾートは、宿泊客の街歩きに同行してガイド役を務める「OMOレンジャー」のサービスを導入。下町風情の残る居酒屋などをめぐる夜の楽しみ方を提案している。

 大阪では道頓堀商店会や大阪観光局など11社・団体が「道頓堀ナイトカルチャー創造協議会」を昨年11月に設立。道頓堀エリアで訪日客を主要ターゲットに夜間観光のコンテンツ開発に向けて知恵やノウハウを集める話し合いを始めた。

 協議会にはNTTドコモやパナソニック、富士通などICT分野のほか、南海電気鉄道、ナイトクラブのプロデュース業者も名を連ねる。食やエンタメの情報発信力を強める実証実験や、令和7(2025)年開催の大阪・関西万博との相乗効果を念頭にしたコンテンツ開発も進める方針だ。南海は「交通の改善などでの貢献を検討」、パナソニックは「(LED照明で実績の多い)イルミネーション演出に可能性がある」と話す。協議会に参画するJTBによると「治安維持の観点から夜間パトロールのあり方についても協議している」という。

 また、欧米の先進例を取り入れる動きとして、文化・経済振興を通じて夜の街づくりを推進するナイトメイヤーの存在がある。ナイトメイヤーは飲食やエンターテインメントなど夜の楽しみをPRすると同時に、産業と住民の間に立つ調整役である。沖縄県沖縄市では昨年10月、同市出身で人気グループ「DA PUMP」メンバーのISSAさんがナイトメイヤーに就任。東京では渋谷区観光大使ナイトアンバサダーを務めるヒップホップ歌手のZeebra(ジブラ)さんが「東京ナイトメイヤー」の発足準備委員会設立を宣言した。

 ロンドンやアムステルダムでは自治体がナイトライフに通じた民間出身者を指名。ロンドンではコメディアンで元DJのエイミー・ラメ氏が就任した。JTB総研の安藤主任研究員は「ナイトメイヤーは夜間経済が活発になることで生じる課題の解決策を提案するなど、地域コミュニティーを守るうえで重要な役割を担う」と説明している。

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