「やよい軒」より100円高い「大戸屋」がお客を取り戻す一手はあるのか

2020.3.1 09:03

 定食チェーン「大戸屋ごはん処」が客離れに苦しみつづけている。既存店売上高は12カ月連続で前年割れとなった。店舗経営コンサルタントの佐藤昌司氏は「今の大戸屋は価格が高すぎる。負のループから抜け出すためには、筆頭株主になったコロワイドとの協業を深めるしかない」と分析する--。

 「大戸屋ランチ」が実質790円になり、客が離れた

 定食チェーン「大戸屋ごはん処」を運営する大戸屋ホールディングス(HD)の苦境が続いている。1月の既存店売上高は前年同月比4.3%減だった。前年割れは12カ月連続になる。既存店の不振は長らく続いているが、特に今期(2020年3月期)が深刻で、19年4月~20年1月累計で前年同期比5.5%減と大幅マイナスとなっている。

 今期の不振の原因は、昨年2月に表面化したアルバイト従業員による不適切動画の拡散、いわゆる「バイトテロ」でのイメージ悪化や、昨秋の台風19号による閉店で集客に苦戦したことが挙げられる。だが、やはり根本的な「価格の高さ」による客離れが大きいだろう。

 大戸屋ではこれまでにたびたびメニュー価格の引き上げを行ってきた。昨年4月のメニュー改定では定食の一部を値上げしたほか、720円(以下すべて税込み)と安価で人気のあった定番商品「大戸屋ランチ」を廃止した。半年後のグランドメニューリニューアル時に復活したが、価格は790円と以前と比べて70円高くなっている。

 居酒屋ランチという強力なライバル

 値上げの繰り返しにより、現在の定食の価格は800円台と900円台が主流となっている。1000円以上のものも少なくない。ライバルの「やよい軒」と比べると、定食の単価は100円程度高いだろう。たとえば、やよい軒の定番「サバの塩焼定食」は670円だ。こうした価格の高さが敬遠されて、大戸屋では客離れが加速した。

 大戸屋を取り巻く環境は厳しさを増している。「やよい軒」「まいどおおきに食堂」「めしや宮本むなし」などの同業はもちろん、異業種との競争も激化している。例えばランチタイムに定食を提供する居酒屋があるが、大戸屋より安いところもあり、大きな脅威だ。

 異業種の競合は居酒屋だけではない。「吉野家」など牛丼店や「かつや」などとんかつ店、「バーミヤン」など中華料理店で定食を販売するところがあり、部分的に競合する。当然、コンビニ弁当も競争相手といえるだろう。

 主菜1品+副菜+ご飯というスタイルが基本の定食店は、主菜となる1品を専門的に販売する店と競合関係になりやすい。魚系の定食であれば海鮮系居酒屋と、とんかつ定食であればとんかつ店と、野菜や肉を炒めたり揚げたりした定食であれば中華料理店と競合する。

 専門店はその分野のプロなので、メインとなる食材を安価で仕入れやすく、定食にしても価格が抑えられる。定食店はその点で不利にならざるを得ない。

 大戸屋が選んだのは「脱手作り」

 やはり大戸屋に必要なのは、価格帯の引き下げだ。そのためにはコスト削減が欠かせない。大戸屋がそのために選んだのは、「脱手作り」の道だ。

 大戸屋は店で手作りで調理する「店内調理」を売りとしている。店で野菜を洗って下ごしらえをする。店で鰹節を削り、だしをひく。肉や魚も店で仕込みを行い調理する。こうした手間をかけて料理のおいしさを高めてきた。

 ただ、店内調理は手間がかかるためコスト増につながりやすい。特に近年は人手不足により人件費が高騰しているため、コスト増が顕著だ。大戸屋はこうしたコスト増を吸収できず、価格に転嫁せざるを得ない状況になっていた。

 そこで、カット野菜などの加工品も活用して業務効率を上げ、コスト低減を図る考えだ。店内調理の原則は維持するという。

 ミスドも王将も店内調理を減らしている

 こうした動きは大戸屋に限ったことではない。「脱手作り」に舵を切る外食店が目立っている。ドーナツチェーン「ミスタードーナツ」は店内調理をしない店舗を増やし、近隣店から商品を調達する体制への切り替えを進めてきた。調理担当の人手不足への対応のほか、調理設備にかかるコストの削減を図った。中華料理チェーン「餃子の王将」は餃子を店舗で包むのをやめて、工場で包んで店舗に配送する方式に切り替えた。店舗での作業軽減と料理提供時間の短縮を図っている。

 「脱手作り」で懸念されるのは、おいしさの低下と訴求力の低下だ。だが、現在は加工品を作る技術が進化しており、手作り品に負けない品質を確保できるようになっている。

 筆者の個人的な感想になってしまうが、工場での成型になっても王将の餃子のおいしさが変わった印象はまったくないし、おいしさのイメージも低下していない。筆者は餃子の王将の「餃子」(6個)と、店舗で餃子を包む中華料理チェーン「大阪王将」の「元祖焼餃子」餃子(6個)を食べ比べたことがあるが、おいしさは同レべルで価格もほぼ同水準と、餃子自体に違いを見つけられなかった。

 ブランドのアイデンティティーとどう両立するか

 大戸屋がカット野菜などの加工品も活用するのはアリだろう。手作り感は強い訴求力があるが、一方で安く商品を提供することも重要だ。もちろん両立できるのが1番だが、食材費や人件費の高騰など昨今の経済状況から両立は難しくなっている。どちらを重要視すべきかといえば、安く商品を提供するほうだろう。

 とはいえ、大戸屋の手作り感はブランドのアイデンティティーになっている。餃子の王将の餃子と同じようには考えられない面があるのも事実だ。定食と餃子とでは、手作りかどうかでおいしさが左右される程度も異なるだろう。そのため、できれば店内調理の原則は崩さないようにしたいところだ。

 餃子の王将にしても、チャーハンやニラレバ、酢豚などは店舗で手作りし、それを売りにしている。同様に大戸屋でも、店内調理を原則として一部で加工品を活用するのは妥当だろう。

 やよい軒とほっともっとのメニューが似ている理由

 そうなると、脱手作りによるコスト削減効果は限定的になり、ほかの面でのコスト削減が不可欠だ。そこで期待されるのが、2019年10月に筆頭株主となった外食大手のコロワイドとの共同調達による食材費の低減だ。大戸屋は国内で約350店(2019年3月末時点)を展開しているが、全国に約2700店(2019年9月末時点)を展開するコロワイドと共同調達ができれば、スケールメリットを活かして食材費の低減が期待できる。

 ライバルのやよい軒が低価格を実現できている理由もここにある。国内店舗数は約380店と大戸屋と大差はないが、やよい軒を運営するプレナスは弁当店「ほっともっと」約2500店(国内)などを抱え、グループでの店舗数は約3000店(同)にのぼる。

 やよい軒とほっともっとのメニューはラインアップがかなり似ている。やよい軒が「しょうが焼定食」(640円)を提供し、ほっともっとでは「しょうが焼き弁当」(500円)を提供している。ほかにも「肉野菜炒め定食」(730円)と「肉野菜炒め弁当」(520円)、「から揚げ定食」(730円)と「から揚弁当」(4個入り390円)、「チキン南蛮定食」(760円)と「チキン南蛮弁当」(500円)、「デミハンバーグ定食」(850円)と「デミグラスハンバーグステーキ弁当」(590円)など、数文字の違いしかない。

 やよい軒はグループのほかの店舗と食材を共通化してスケールメリットを発揮し、食材費をおさえている。実質的には、約2900店(やよい軒約380店+ほっともっと約2500店)で食材の調達を行っていると考えられる。

 筆頭株主コロワイドとの協業に期待

 大戸屋もこの方法をとりたいところだが、大戸屋HDでは大戸屋以外のブランドが育っていないため、実現できずにいた。だが、コロワイドが筆頭株主となり協業の芽が出てきたことで、共同調達による食材費の低減が期待できるようになった。

 コロワイドには、大戸屋が提供するメニューで使われる食材を扱う飲食ブランドが複数ある。「土間土間」「寧々家」など魚や肉の料理を提供する居酒屋や、「かっぱ寿司」など魚料理を提供する回転ずし店、「ステーキ宮」などステーキやハンバーグを提供する店、「かつ時」などとんかつを提供する店などだ。これらと共同で食材を調達できれば、食材費の低減、メニュー価格の引き下げが期待できる。

 また、コロワイド傘下の焼肉チェーン「牛角」などの仕入れルートを生かして「カルビ焼肉定食」といった新たな定食メニューを開発し、価格を抑えて提供することもできるだろう。

 協業は交渉ごとなので簡単にはいかないだろうが、大戸屋HDはもはや自社だけでのこれ以上のコスト削減はなかなか難しい局面にある。おそらくコロワイドの力を借りてこうした策を実行することになるだろう。いずれにせよメニュー価格の引き下げが喫緊に求められており、どのような解決策を出すのかに注目が集まる。

 佐藤 昌司(さとう・まさし)

 店舗経営コンサルタント

 立教大学社会学部卒業。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。店舗型ビジネスの専門家として、集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供している。

 (店舗経営コンサルタント 佐藤 昌司)

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