【高論卓説】「懸念があるから…」と二者択一の思考に 在宅勤務で企業成長を

2020.6.3 05:00

 緊急事態宣言の解除を受けて、業種として在宅勤務が可能な企業が、経営判断に迫られている。在宅勤務を継続するか、そのためにICT(情報通信技術)インフラ整備を進めるかという判断だ。これらを継続する企業と、しない企業が、大きく二極化している。そして、継続するかどうかは、宣言解除後の企業成長を大きく左右するファクターだと思えてならない。

 そもそも、宣言下において、1人1台のパソコン提供や、全社員がアクセスできるインフラ環境など、ICTを整備できなかった企業もある。パソコンは提供できたが、セキュリティーポリシーに基づく運用方法を変更できずに、ZoomやSkypeなどのリモート会議ツールの使用に踏み出せなかった企業もある。インフラの整備や活用ができなかった企業の中には、宣言解除で、在宅勤務を中止し、通常通りの勤務に戻ろうとしているケースもある。

 しかし、通常勤務に単に戻るだけでは、新型コロナウイルス感染第2波の温床となるばかりか、社員感染リスク、ひいては、事業継続の大きなリスクを抱え続けることになる。

 通常勤務に戻って、なおかつ、感染防止対応を最大限実施すればよいではないかという考え方もある。毎日の検温結果に基づく出社許可、手指の消毒、書類の直接の受け渡しの禁止、距離を十分にとった座席、換気の実施など、さまざまな方策がある。これらの方策の行き着く先は、密を避けるため一部社員の在宅勤務を継続するという方法だ。結局、一部といえども、インフラ整備が必要となるということに行き着く。

 私がさまざまな企業と接している肌感覚では、現実には、通常勤務における感染防止対応を実施している企業は、ICTインフラ整備を継続し、在宅勤務を継続できる企業が多い。逆に言えば、インフラ整備ができず、在宅勤務を継続することに手をこまねいている企業は、感染防止措置に対する意識も希薄だと言わざるを得ない。

 インフラ整備、在宅勤務を継続しつつ感染防止対応を図る企業と、それらのいずれの対応も不十分なままにとどまる企業とに二極化されるのだ。後者の企業が抱える経営リスクは、前者に比べて格段に高いままである。

 後者の企業の幹部に聞いてみると、共通の傾向があるように思える。リモート会議ツールに対するセキュリティーの脆弱(ぜいじゃく)性と、有用性に関する懸念だ。そして、これらの懸念に対して解消策を検討するよりも先に、懸念があるから選択肢から外すという100かゼロかという二者択一の選択の思考に陥ってしまっている。これはあたかも、在宅勤務をするかしないかという二者択一の選択に陥って、一部在宅に伴う方策を検討する段階に至らない状況と同じだ。

 セキュリティーの懸念があれば、リモート会議で扱う情報のレベルをコントロールする方法もある。有用性の懸念を持つケースは、そもそも参加者はビデオやマイクをオフにさせて実施するだけで、一方通行の伝達ツールとしてしか機能させていない場合が実に多い。回線の不安定さを指摘する人もいまだ多いが、私は数十人単位で、常時ビデオやマイクをオンにして双方向演習を頻繁に実施していて、不都合を感じたことは一度もない。企業リスク度合い、ひいては企業成長を左右する、宣言解除後の経営判断をひもとくと、リモート会議の活用判断に行き着くのだ。

【プロフィル】山口博

 やまぐち・ひろし モチベーションファクター代表取締役。慶大卒。サンパウロ大留学。第一生命保険、PwC、KPMGなどを経て、2017年モチベーションファクターを設立。横浜国大非常勤講師。著書に『チームを動かすファシリテーションのドリル』『ビジネススキル急上昇日めくりドリル』(扶桑社)、『99%の人が気づいていないビジネス力アップの基本100』(講談社)。長野県出身。

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