国連会合で防災投資の原則策定提案

水と共生(とも)に
米ニューヨークの国連本部で開催された「国連水と災害に関する特別会合」の様子(日本水フォーラム提供)

 米ニューヨークの国連本部で7月20日、第3回「国連 水と災害に関する特別会合」が開催された。国連で唯一の「水と災害」をテーマにした特別会合で、水と災害に関する国際的な意識を高め、国際社会の水災害防止に関する活動を前進させることを目的にしている。主催は「防災と水に関する国連事務総長特使」と「水と災害ハイレベル・パネル(HELP)」だが、日本政府が主導している。会合に参加した日本水フォーラムの守安邦弘ディレクターのリポートを中心に会合の模様を紹介する。

 ◆「国の主導が重要」

 最近では、世界の水問題の中に洪水などの水災害が含まれることは当然となっているが、20年ほど前はそうではなかった。

 第2回「世界水フォーラム」(2000年、オランダ・ハーグ)に参加した日本の政府関係者は、水災害が世界の水問題として扱われていないことに衝撃を受け、第3回の同フォーラムを日本に誘致し、水災害を主要テーマの一つに加えた。日本はそれ以降、「国連 水と衛生に関する諮問委員会」「水と災害ハイレベル・パネル」「アジア・太平洋水サミット」「世界水フォーラム」などのグローバルなチャンネルを活用し、国家の発展には水災害への対策が重要であると世界中にPRしてきた。そうした活動が「国連 水と災害に関する特別会合」(以下、特別会合)につながっている。

 今回の特別会合は、第1回(13年3月)、第2回(15年11月)に続くもので、今回初めてハンガリーのアーデル大統領、モーリシャスのファキム大統領、ミャンマーのヘンリーバンティオ副大統領ら国家元首級が参加した。

 日本からは自民党の二階俊博幹事長が参加して講演を行い、「7月の九州北部豪雨の被害に触れたうえで、国土強靭(きょうじん)化の重要性を訴え、日本の知見や経験、教訓を、全世界に伝えていくことが日本の使命である」(守安氏のリポート)と強調した。

 オープニングで元首級の講演が行われた後、討議が行われた。オランダのインフラ環境相が議長を務め、国土交通省の森昌文技監のほか、他国から6人の閣僚級や国際機関の高官が参加、「水災害リスクの低減に向けた投資と資金確保」をテーマに議論した。

 森技監は日本の経験を踏まえ、「防災は国のリーダーシップが重要」であること、「防災への事前投資を増やすことが重要」であることを指摘し、それを実現するには(1)防災投資に関する原則を策定する(2)16年9月の国連総会で採択された「水の行動の10年(18~28年)」の間は特別会合を定期的に開催する-ことを提案した。

 ◆皇太子さまの基調講演

 皇太子さまは、第1回、第2回ともに特別会合に出席され、講演されている。今回は、残念ながら出席されなかったが、ビデオを通じて講演された。

 オープニングでは、皇太子さまのビデオによる基調講演が行われた。テーマは「水に働きかける」。内容の一部をご紹介させていただく。

 「私は昨秋、信玄堤(編集注:山梨県甲斐市)を訪れました。信玄堤は、日本の戦国時代の傑出した武将である武田信玄によって建設されました。信玄堤というと、堤防という構造物が連続して設置されているイメージを持ちますが、信玄の目指したところは、単なる堤防だけでなく、異なった機能の施設を巧みに配し、当時暴れ川だった釜無川の洪水を制御し、その豊かな水量の恩恵を自国にもたらすことにあったようです」

 「このような角度から歴史的水施設を見てみると、人はそこにある地形や自然のありさまを俯瞰(ふかん)し、それに対して自らの持てる知見と手段を適合させてきたように見えます。こうしたやり方は現在でも立派に通用するものです。今後の私たちが水に働きかけていくうえで貴重な示唆になりうるのではないでしょうか」

 皇太子さまは日本の歴史的な水に関する事例を、自ら撮影された写真や制作された図表を用いて分かりやすく説明され、歴史から学ぶことの意義を語られた。さらに、海外の事例にも触れられた。

 「クアラルンプールでは、2007年から洪水放水路と道路トンネルを兼ねたSMARTトンネルが運用されています。この施設は200を超えるCCTVカメラを設置するなど情報技術を駆使し、安全面に多くの配慮がなされ、現代の都市で大きな課題となっている都市洪水と渋滞対策に対し、1つの施設で解決を図っているところに特徴があります」

 皇太子さまがこの施設を視察されてその壮大な構想と実用性に驚いたことを振り返られ、科学技術の進展への期待を語られた。講演の最後に、「人類が掲げた高い共通の目標達成の礎をなすため、世界の人々とともにさまざまな水問題解決に向けて歩みを続けていきたい」と決意を述べられた。

 皇太子さまの水に対する真摯(しんし)な姿勢、研究内容の深さは、世界中から集まった出席者や聴講者を感動させた。

 ◆日本がリードを

 皇太子さまの講演詳細については宮内庁のホームページを訪ね、改めて読んでほしい。

 今回の特別会合では、防災への事前投資を増やすため、投資原則を策定することが提案された。今後、水と災害ハイレベル・パネルで具体的な検討が進められていくと思われるが、今年12月にミャンマー・ヤンゴンで開催される第3回「アジア・太平洋水サミット」の場も活用し、防災大国・日本が世界をリードしていくことを期待したい。

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【プロフィル】吉村和就

 よしむら・かずなり グローバルウォータ・ジャパン代表、国連環境アドバイザー。1972年荏原インフィルコ入社。荏原製作所本社経営企画部長、国連ニューヨーク本部の環境審議官などを経て、2005年グローバルウォータ・ジャパン設立。現在、国連テクニカルアドバイザー、水の安全保障戦略機構・技術普及委員長、経済産業省「水ビジネス国際展開研究会」委員、自民党「水戦略特命委員会」顧問などを務める。著書に『水ビジネス 110兆円水市場の攻防』(角川書店)、『日本人が知らない巨大市場 水ビジネスに挑む』(技術評論社)、『水に流せない水の話』(角川文庫)など。