Science View
員眞貝洋一氏

 ■細胞記憶の理解に新たな糸口

 □理化学研究所 眞貝細胞記憶研究室 主任研究・員眞貝洋一

 生物の遺伝情報はDNAに記されており、どの細胞でも基本的には同一である。DNAのメチル化などの調節機構によって、それぞれの細胞に固有の遺伝子 発現パターンがもたらされる。このパターンの違いが、細胞の見た目や機能といった“その細胞らしさ”を決定していると考えられている。また、DNAメチル化パターンは、細胞が分裂しても親細胞から娘細胞へと正確に受け継がれていくため、細胞固有の性質を記録している「細胞記憶」の1つと考えられている。DNAのメチル化パターンの継承には、UHRF1というタンパク質が必須であるが、どのようにUHRF1がDNAの複製の場にやってくるのかは分かっていなかった。

 今回、理研を中心とする国際共同研究グループは、質量分析法を用いた網羅的探索により、DNAの複製に重要な役割を持つDNAリガーゼ1(LIG1)がUHRF1と複合体を形成することを発見した。LIG1がUHRF1と複合体を形成できないようにした細胞を作製したところ、UHRF1がDNA複製の場に来なくなり、DNAメチル化パターンの継承がうまくいかないことが分かった。これらの結果から、LIG1がUHRF1をDNA複製の場に連れていくことで、DNAメチル化パターンの継承が効率的に行われると結論づけられた。

 本成果は、細胞がいかにして“その細胞らしさ”を維持しているのか、細胞記憶を理解する上での新たな糸口になると期待できる。

 メチル化酵素複合体であるG9a/GLPが、LIG1のヒストン様配列をメチル化する。メチル化されたLIG1はUHRF1と結合し、複合体を形成する。UHRF1/LIG1複合体は、DNA複製のときにDNA複製の場にやってくる。このとき、メチル化LIG1はUHRF1をDNA複製の場に連れていくことで、効率的に新生DNA鎖のメチル化(DNAメチル化パターンの複製)を誘導していると考えられる。

                   ◇

【プロフィル】員眞貝洋一

 しんかい・よういち 1990年順天堂大学大学院医学研究科博士課程修了、博士(医学)。京都大学ウイルス研究所准教授、教授を経て、2011年より現職。2001年、当時その機能がよくわからなかったG9aという分子がヒストンのリシンメチル化酵素であることを見出し、その後は一貫してヒストンメチル化による細胞記憶メカニズムの研究を進めている。

 ■コメント=今後は、細胞記憶=エピゲノムを操作することで生命機能の制御を目指す。

                □ ■ □

 ■X線自由電子レーザーの創薬利用が前進

 □理化学研究所放射光科学総合研究センター 生物試料基盤グループ グループディレクター・国島直樹

 X線自由電子レーザー(XFEL)による連続フェムト秒結晶構造解析(SFX)を使ったタンパク質微結晶の室温構造は、「構造に基づく薬物設計(SBDD)」にとって利点となる可能性があるが、従来法との違いが不明だった。また、SBDDで必要なタンパク質-リガンド複合体の結晶は、リガンド水溶液にタンパク質結晶を浸すソーキング法によって調製するが、微結晶に適用できるか不明だった。

 理研を中心とした共同研究グループは、タンパク質サーモリシンとリガンドZAを試料として用い、一般的なソーキング法によりサーモリシン-ZA複合体微結晶を調製し、SACLAのビームラインでSFX実験(室温)を行った。比較のために、SPring-8の放射光(SR)を用いた従来の結晶構造解析(低温)も行った。その結果、SFXによるタンパク質-リガンド複合体微結晶の構造解析は上記の簡便な方法で実行できることが分かり、同複合体構造が従来のSR法に比べ高い再現性で得られた。さらにSFXによる室温構造では、ZAのカルボキシ基において、2つの立体配置を交互にとる交互立体配座がみられたが、SRによる低温構造ではみられなかった。つまり、SFXから得られる構造情報は、タンパク質-リガンド間の生理状態での相互作用をより正確に反映しているといえる。

 本研究によりSBDDにおける化合物(薬剤)探索のためにSFXが適用できることが示され、今後、製薬企業などによるXFELの創薬利用が加速すると期待できる。

 今回の実験で得られたサーモリシン-リガンド複合体におけるリガンド結合部位の拡大図を示す。左右がそれぞれSFX(室温)とSR(低温)から得られた構造である。中央に示した低分子化合物リガンドZAの化学構造において、赤丸で示した部分(カルボキシ基)の構造に違いがみられる。すなわち、SFX構造ではAとB(水色)の2つの立体配置を交互にとる「交互立体配座」が観測され、AとBの割合は約6:4であった。

                   ◇

【プロフィル】国島直樹

 くにしま・なおき 1994年大阪大学大学院理学研究科博士課程修了、博士(理学)。生物分子工学研究所研究員、理化学研究所チームリーダーなどを経て、2013年から現職。構造生物学を高度化するための技術開発を推進している。

 ■コメント=放射光・XFELの創薬利用を進めるとともにタンパク質結晶の合理設計を実現したい。

                □ ■ □

 ■理化学研究所 神戸地区が一般公開を開催

 理化学研究所の神戸地区(多細胞システム形成研究センター、ライフサイエンス技術基盤研究センター、生命システム研究センター、健康生き活き羅針盤リサーチコンプレックス推進プログラム、計算科学研究機構)は、10月14日(土)に一般公開を開催する。スーパーコンピュータ「京」の見学をはじめ、最先端の研究を紹介する講演会のほか、各会場で研究現場の公開や施設の見学ツアー、科学の不思議がわかる体験型イベントを予定。また、理化学研究所の周辺にある他の施設(大学、研究機関、企業)の公開も同時に行われ、高校生を対象とした講演会とトークセッション「サイエンスアゴラin KOBE」も神戸大学先端融合研究環統合研究拠点コンベンションホールで行われる。入場無料。

 ◇日時 10月14日(土)10:00~16:30(入場は16:15)まで

 ◇場所 神戸第1地区(神戸市中央区港島南町2-2-3、最寄駅・ポートラ    イナー「医療センター」駅) 神戸第2地区(神戸市中央区港島南町7-1-26、最寄駅:ポートライナー「京コンピュータ前」駅)

 ◇詳しいプログラムなどは以下の特設ホームページ参照

 http://www.kobe.riken.jp/openhouse/17/

 ◇問い合わせ

 理化学研究所 神戸事業所 (電)078・306・0111(代表)

Read more