「旧態依然の働き方」に問題意識突きつける

電通社員過労自殺
電通の本社ビル=4月28日午後、東京都港区(宮崎瑞穂撮影)

 電通の違法残業事件は公開の法廷で審理され、司法が「違法な長時間労働が常態化していた」と断じた。高度経済成長期以来、日本の企業や経済の発展を支えてきたとも言われた長時間労働。しばしば明るみに出るのは氷山の一角にすぎない。旧態依然とした風潮は払拭できるのか。事件は電通だけでなく、日本社会全体に大きな課題を突き付けている。(大竹直樹、山本浩輔)

 電通では「クライアント・ファースト(顧客最優先)」との考え方に基づき社員に過重労働という形でしわ寄せがいっていた。昭和26年に制定された電通の行動規範「鬼十則」には長時間労働や過労死を招きかねない「取り組んだら放すな、殺されても放すな」といった苛烈な文言が並ぶ。

 電通では平成3年にも入社2年目の男性社員=当時(24)=が過労自殺し、最高裁が12年に会社側の責任を認める判決を出している。これが契機となり、過労死など国の判断基準が見直されたが、電通が抜本的な対策を講じることはなく、女性新入社員の過労自殺という悲劇を招いた。「鬼十則」が見直され、社員手帳から削除されたのは、過労自殺から1年後の昨年12月だった。

 書面審理のみで罰金刑を科す略式起訴は、軽微で争いのない事件は迅速に処理すべきとの要請に基づくものだが、裁判所はあえて正式裁判を開くことを決めた。過重労働に厳しい目を向けるようになった社会の変化も考慮した判断とみられる。

 全国過労死を考える家族の会の寺西笑子(えみこ)代表(68)は「社長が公開の法廷で謝罪し、社会的な責任を取らされることになった意義は大きい」と話す。

 過労死に詳しい松丸正弁護士(71)は「何より社員の命、健康が大事。社員ファーストがあってはじめてクライアント・ファーストにつながる」と指摘。「他の企業も今回の事件を教訓とすべきだ」と話す。

 政府は「働き方改革実行計画」で、残業時間の上限を明確化するなど、本気で対策に乗り出している。今後、社員に過重労働を強いる企業はブランドイメージを損ね、経営上もリスクを負うことになる。

 「過重労働を根絶することを約束する」。判決後、山本敏博社長はこう語った。全ての企業の経営者が取り組むべき誓いであるはずだ。