--インドの調査結果からみえてきた放射線とがんとの関係を教えてください
「固形がんの場合は、そのリスクを考えたとき、同じ線量でも原爆被ばくのように一度に浴びた場合と、福島のようにゆっくり、あるいは繰り返し浴びる場合とではリスクが違います。時間当たりの線量=線量率が高いとがんのリスクが高く、線量率が低いとリスクは低い。ただ、リスクがないということをこの調査だけで証明することはできません。原爆被ばくでは、1シーベルト(1000ミリシーベルト)の放射線を浴びると固形がんが約5割増えるといわれていますが、この地域では全く増えていませんでした。実際、どのくらいの推定値だったかというと、1シーベルトの被ばくに換算すると13%減るという結果です。ただし、私たちは放射線を浴びるとがんが減るということを主張したいわけではなく、少なくともがんが増えているという証拠は得られなかった、ということです」
--あらためて今回の疫学調査の意義を聞かせてください
「放射線技師や原発関連従事者などを対象とした職業被ばく疫学調査も非常に重要ですが、ほとんどが喫煙などの生活習慣ファクターを調整していません。また、職業被ばく集団は年齢や性別に偏りがあり、子供や女性への影響を正しく評価できないという問題があります。これに対し、今回の調査では全員の個人線量や社会経済状況などを調べ、信頼に足るがん罹患データを用いてリスクも検討しました。幅広い年齢層の男女を含み、事故や病気などの心理的ストレスを受けていない普通の生活を送っている人たちが調査対象という点で信頼できる内容になっていると思います」