扁桃体の神経細胞が、怖い体験と音刺激による活性化を同時に受けて、音刺激に対する神経のつながりを強化する(ヘッブ型可塑性)だけでなく、怖い体験に反応して分泌されるノルアドレナリンが働くことにより2つの出来事が結び付き、恐怖記憶が形成される。【拡大】
□理化学研究所バイオリソースセンター 新規変異マウス研究開発チーム 開発研究員・村田卓也
■精子や卵子が正常でも不妊になり得る
不妊にはさまざまな要因があるが、遺伝的要因もその一つ。β-カテニン遺伝子という形態の形成に必須な遺伝子があるが、この遺伝子が欠損すると発生初期から成長が止まってしまう。そのため、β-カテニン遺伝子の機能不全が、身体全体に影響せずに局所的な症状につながることはないと考えられていた。理研の研究チームは、β-カテニン遺伝子の詳細な機能を解明するため、マウスを対象にゲノム情報を1塩基レベルで機能解析するシステムを用い、遺伝子全体を欠損させるのではなく、1塩基だけ変異させて遺伝子機能の解析を行った。
その結果、予期しないことが起きた。「精子も卵子も正常なのに不妊になるマウス」を発見したのである。このマウスは、β-カテニン遺伝子のわずか1文字(1塩基)の突然変異によって、タンパク質を構成するアミノ酸の配列が1文字(1残基)だけ変わり、オスは精嚢(せいのう)の形成過剰、メスは膣(ちつ)の形成不全を引き起こし、不妊になっていた。一方で、卵子や精子を含め、その他の異常は認められず寿命を全うした。つまり、このマウスは、必須遺伝子といわれるβ-カテニン遺伝子のわずか1塩基の置換によって、局所的な精嚢や膣の形成だけにその影響が現れたことになる。
β-カテニン遺伝子から作られるタンパク質のアミノ酸配列は、マウスとヒトでは100%同一であり、不妊マウスの解析結果が、そのままヒトにも当てはまると考えられる。研究が進展すれば、不妊の原因の一つを特定できる可能性があり、早期診断、早期治療につながると期待できる。
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