□地球環境産業技術研究機構理事長・茅陽一
昨年末、温暖化に関するパリ協定が作られた。各国の正式な合意はまだだが、195カ国という世界のほとんどの国が参加した会議で協定が決議されたというのは大変なことだ。京都議定書では中国を筆頭に発展途上国すべてに排出抑制義務がなく、また米国も参加を見送って、世界が協力して温暖化対策に努力するというには程遠い状況だったのだが、今度は排出抑制目標が各国の自主的な決定に任されたとはいえ、これだけ世界が一致して温暖化に対応しようという姿勢を示したことは高く評価できるだろう。
ただ、問題はパリ協定の具体的項目をみるとそのすべてが実行できる内容とはいえないことである。特に気になるのは、温度上昇を工業化以前に比して1.5度に抑えるよう努力する、という文章である。地球の温度は工業化以前に比べて温度上昇がすでに1度を上回っており、「あと0.5度」というのは極めて厳しい要求である。
◆前例ない1.5度シナリオ
パリ会議は、この条件を満たすシナリオを気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2018年までに作って示すように、という要請を出しているが、IPCCが果たしてその要請に応えられるだろうか。過去25年の活動でIPCCはいろいろな将来シナリオを示しているが、1.5度上昇に対するシナリオは出していない。
それはそのようなシナリオを作ることができたモデルグループがほとんどいなかったことによる。最近たまたま気候関係の学術誌のある論文に1.5度目標を実現したシナリオがのっていたが、それをみると温室効果ガスの排出が50年にはゼロとなり、80年にはCO2の吸収が年150億トンに達することになっている。