【女性のエネルギー考】生活に欠かせない電気をもっと考えて

2016.2.25 05:00

 □全国地域婦人団体連絡協議会前事務局長 NPO法人ふぁみりあネット理事長・夏目智子さん

 ■自由化への対応は慎重に

 --この4月から電力の小売り全面自由化がスタートし、一般家庭も電力会社を選んで電気を購入できるようになります。消費者は電力自由化をどう受け止め、何を期待しているのでしょうか

 「これまでは地域の電力会社から電気を買うのが当たり前で、消費者が自ら電力会社を選ぶということは想定していませんでした。自由化で電力会社を選べるようになるといわれても、何を基準に選べばよいのかという話だと思います。消費者が電力自由化の内容を理解することが必要ですが、関心を持っている人が多いとはいえません。少なくとも2020年4月までは、今と同じ電力会社・料金メニューでも電気を買える消費者保護のルールがあるので、私自身はそんなに急いで電力会社を選ばなくてもいいと考えています」

 「消費者が自由化で期待しているのは、電気料金が安くなるかもしれないということでしょう。電気料金が安くなれば消費者にはありがたいことですが、安くなっても安定供給がきちっと担保されないと問題です。自由化といいますと、モノやサービスが安くなるイメージがありますが、電気は本当にそうなのかと考えなければいけないと思っています」

 --消費者が電力自由化で不安に感じていることも多いと思います

 「全国で百数十社にのぼる小売電気事業者がどういう事業者であるのか、消費者にはその中身がよく分かりません。また、他の商品やサービスと電気料金をセットで販売するところが多いようですが、そのセット商品、セット割引の中身も分かりにくいのです。この2つが消費者にとっては大きな不安だと思います。本当にどこが、どのメニューがお得なのかが見えてきません。しかも、電気料金とそれ以外のモノ、サービスとの組み合わせによって契約が複雑になっており、消費者は慎重に対応していかなければいけないと思います」

 --消費者の不安を受けて、電気事業者への要望は

 「事業者は説明責任を果たし、消費者に納得してもらって契約してもらう必要があります。新規参入の新電力はとくに『当社はこういう電力会社です』ということを分かりやすく説明してほしいと思います。自社で電源を持っているところは少ないわけですから、どこと組んでどんな電源を使うのかという情報を積極的に開示してほしいですね。その部分が今は欠けているような気がします。新電力の多くは電気をつくっていないのにどうして電気を売れるのかというのは不思議な話で、消費者は疑問に思っています。再生可能エネルギーを売りにしているところもあり、それはそれでけっこうなことですが、再エネだけですべてをカバーできるわけではなく、不足した電気は既存の電力会社から買うことになります。新電力と契約しても停電の心配がないのは、既存の電力会社がバックアップするからです。こうしたことも含め基本的情報をきちっと公開していくべきです」

 ■すべての根源にエネルギー

 --新たな契約には、消費者の自己責任が伴います。トラブルを防ぐために留意すべきことは

 「消費者は契約内容を読み取る力が必要になります。割引料金の適用条件は何か、契約期間のしばりと自動更新の有無、解約時の違約金の有無などを分かったうえで契約する必要があります。それには既存電力との今の契約内容を良く理解したうえで、新しい契約でどう変わるのかをじっくり考えることが大事です。電力に限らず、日本の消費者問題に関する教育の歴史はまだ浅いのが実情です。09年には消費者目線の省庁である消費者庁が発足しましたが、消費者教育を受けてこなかった大人の世代、とくに高齢者層の教育をどうするかは大きな問題です。世の中が複雑な契約社会になり、消費者は契約書を読み取る力をつける必要があります」

 --東日本大震災後に日本のエネルギー事情が大きく変化し、消費者の電気やエネルギーに対する見方も変わりました

 「東日本大震災前までは電気のない暮らしを想像したことはありませんでした。しかし、私たちは実際に停電が起こりうるということを経験しました。当時、私は東京にいましたので計画停電もあり、電気のありがたさが身にしみて分かりました。震災から1カ月ほど後、被災地支援のために宮城県に入り、『この地域に電柱が立ったときは涙が出てきました。復興の第1歩の証でした』という被災者の話を聞いたときは、私も涙が止まりませんでした。電気のない暮らしがどれだけ大変か、身にしみていたわけです。被災地の方はもちろん、東日本地域の人たちは、エネルギーについてしっかり考えていかなければいけないと気持ちを切り替えたと思います。ところが、地元の静岡に帰って震災の経験談をしてもあまり反応がなかったのを覚えています。経験の違いによる温度差を感じました。日本は産業が発展し、経済力をつけ、私たちも豊かな生活を手に入れました。そのすべての根源にはエネルギーがあるのですが、日本はそのエネルギー資源のほとんどを自前では調達できないという現実を、消費者にはもっと理解してほしいと思います」

 --自前のエネルギーという点では、準国産エネルギーの原子力がほとんど動いていないため、日本のエネルギー自給率は極端に低下しています

 「日本のエネルギー自給率は今や6%程度で、原油やLNG(液化天然ガス)などのエネルギー資源を海外に依存するというリスキーな部分を抱えています。かつて経験した石油ショックは、これからもいつ起こるか分かりません。原油価格の動きに一喜一憂しなければならない現状を考えれば、やはり安定的な自前の電源を持たなければいけないと思います。ただ、原子力については、一部再稼働しつつある中で、『原発はいらない』という人たちも多くいます。しかし、『ノー』というのなら、その分の代替電源についてどう担保するのかを議論し、具体的に示すべきです。再エネだけでカバーしていくのはむずかしいのが現状です。島国の日本は、他国から電気を買うことができる欧州とは地理的条件が異なり、自前の電源が必要です。世界的にはエネルギー不足や温暖化対策として、原発を増設する国がたくさんあることも忘れてはいけないと思います」

 --次世代のための日本のエネルギーはどうあるべきとお考えですか

 「国は再エネ22~24%、原子力20~22%とする30年度の電源構成を目標としていますが、将来的には原子力は縮小する方向で進んでほしいと思います。しかし、今のままで再エネを増やしていくのは、技術的問題もさることながら、普及支援のための国民負担が大きくなりすぎます。今でも再エネ買い取りに年間2兆円近くをかけており、再エネ普及拡大のためには電気料金が高くなってもよいと言い切ることはむずかしいと思います。再エネをコストが安く安定した基幹電源として使えるようにする技術開発に期待したいですね。一方で再エネには自然破壊や施設老朽化の問題もあります。再エネはメリットばかり、原子力はデメリットばかりが発信される風潮にありますが、双方ともに両面の情報を公平に発信してもらうことが大事で、それを読み解くのは受け手である消費者の問題です。次世代の人たちには今よりももっと豊かな社会・生活を残すのが、私たちの役目です。そのためには、どのようなエネルギー構成が最良なのかを議論していく必要があり、私たちもエネルギー問題に関心を持ち、学んでいかなければいけないと考えています」(聞き手 神卓己)

 <このシリーズは今回で終わります>

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【プロフィル】夏目智子

 なつめ・さとこ 1970年法政大学社会学部卒。高校教諭、専門学校非常勤講師として教鞭(きょうべん)を執る。93年に静岡県地域女性団体連絡協議会理事に就任、2002年から05年まで会長。95年から01年までレディースネット袋井代表を経て、NPO法人ふぁみりあネット理事長。09年から15年まで全国地域婦人団体連絡協議会事務局長。11年から15年消費者委員会委員。現在は農林物資規格調査会委員、食品安全委員会専門委員、電力広域的連携推進機関評議委員。静岡県出身。

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