私は生まれつきの障害を持ち15年間の会社員経験を生かして、就職を目指す障害者を支援している。障害者就労支援事業所などで面談する機会も多く、まず初めに働く理由を尋ねる。どんな理由が多いと思うだろうか。収入を得るため、生活費のためだというのが多いと思う。ところが実はこんな声もある。
「私は障害年金をもらっています。実家で暮らしているので、正直お金には困っていません。生きていく程度の蓄えならもう十分にあります。けれど、働きたい。社会と関わっていなければ何のために生きているのか分からなくなるからです」
人間は社会的動物だ。誰かの役に立ちたいという強い欲求を持っている。自分のためだと頑張れなかったり、あきらめたりすることもあるが、誰かのためと思うと力が湧き、生きる喜びにつながる。これは障害を持つ人もそうでない人も同じだ。
このことはぜひ障害を持つ従業員の教育・人材育成でも生かしてほしい。障害者の仕事は、バックヤードでの仕事や事務作業などあまり目立たない単調な仕事になることもある。しかし、そのような時でも「誰のどのような役に立っているか」を具体的に伝えると、従業員は高いモチベーションで仕事に臨むことができる。
例えば「あなたが事務をしてくれるおかげで、周りの人は負担が減り本来の業務に集中できる。その結果、売り上げも伸びている」と伝えると、自分の役割が明確になる。立ち位置がわかれば、どうすればより良い仕事ができるかを考え、工夫するようになる。さらに「この仕事はあなたに任せる」と責任を与えるとさらに強い動機付けになる。どんな仕事も必ず意味があり、誰かの役に立っている。それを伝えてほしい。