【論風】交流電力と慣性不足問題 安定性確保へ技術革新を

2017.2.2 05:00

 □地球環境産業技術研究機構理事長・茅陽一

 冒頭から電気機械のイロハの説明で恐縮だが、話の筋の都合上、我慢して読んでいただきたい。

 ご承知のように、通常、電力といえば交流だが、その電力システムの周波数が何で決まるのかといえば、発電を担う発電機の回転数である。発電機にはその円筒状回転子に偶数個の磁極がある。単純化して2つとするとそれはプラスとマイナスの磁極で、それが回転して向かい合った円筒上に置かれた導体の上を通過するとその導体に電気が発生するが、磁極のプラスマイナスに対応して発生する電圧の向きが導体上で逆になる。このため導体には交流電気が発生し、軸の回転数と同じ周波数の交流ができることになる。

 従って、電力システムで周波数を一定に保つというのはこの発電機の回転数の安定化に他ならない。一方、電力システムでは需要が時間的に変化するが、それに合わせてタービンに加えるエネルギー量を調整してやらないと周波数が変化してしまうので、こういうことが起こらないよう常に外部からの発電機入力の制御が行われている。

 ◆再生エネの弱点

 しかし、需要の変化が1秒から数十秒オーダーの急激なものだと、そうした外部からの制御では時間的に間に合わない。このとき重要なのが発電機自身の慣性、つまり発電機とタービンの回転子の重さである。回転子はタービン入力と電気出力の差で加減速するが、差がマイナスになれば回転子の運動エネルギーが放出され回転数が減り、逆にプラスになれば回転数が増える。つまり、回転子の回転数(≒周波数)は変化するが、これは運動方程式に従うので重さに当たる慣性が大きければその変化は小さい。そういう意味で交流発電機の慣性は周波数変動を防ぐ重要な因子である。

 だが、問題は最近、太陽光発電など新型の再生可能エネルギー拡大の要請が増えたことだ。これは資源的に考えても、また温暖化対策としても重要で、ドイツなどは、水力も含めて電力の再生エネ比率は30%に近くなっている。しかし、新型の再生エネ、例えば太陽光発電の発電は固体素子で行うのでおよそ慣性を持たない。だから新型再生エネが増えてくると慣性のある発電機は相対的に少ない比率となるし、新型再生エネの影響もあって交流発電機以外の出力の変動も大きいから周波数安定性がぐんと低下する。そこで、アイルランドなどでは導入する新型再生エネの規模を一定の基準を設けて制限することで周波数安定度低下対策としている。

 その意味で注目すべきは原発である。これは大規模電源として世界的に発展してきたが、東京電力福島第1原発事故以来、日本はもとより海外のかなりの国で人気がなくなった。しかし、原発は二酸化炭素(CO2)は出さないので温暖化対策的にも望ましいし、発電機としては火力と同じでタービンの軸に交流発電機が連結されており、慣性を持つ電源として動作する。その意味で原発も電力システムの慣性問題ではプラスの因子として働くことを十分意識する必要がある。

 ◆CO2貯留にも壁

 慣性問題に対してもう一つ考えられる対策は火力発電は使うと同時に化石燃料を燃やすと必然的に排出されるCO2を回収し地下に貯留する、いわゆるCO2貯留施設(CCS)を設置することである。ただ問題はCCSがかなり高コストとなることで、米エネルギー省などの試算をみると、石炭火力などは発電コストがCCSによって2倍近くに増える可能性が高い。このため世界的にCCSは掛け声はさかんに上がるものの実施に至っている発電所はまだほとんどないのが現状だ。

 それでは電力システムの慣性不足を補う他の技術的対策はないか。内外の学会誌などをみると、いくつかの提案がなされているが、実施例はまだないようだ。電力関係技術者の今後の努力を強く要望する。

                   ◇

【プロフィル】茅陽一

 かや・よういち 東大工卒、同大学院修了。東大電気工学科教授、慶大教授を経て、1998年地球環境産業技術研究機構副理事長、2011年から現職。82歳。北海道出身。

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