大気中の二酸化炭素(CO2)の濃度が高くなることによって海水の酸性度が高くなる「海洋酸性化」が新たな海の環境問題として注目されている。観測結果が積み重なり、海の生物への悪影響を示す実験結果も増えてきた。海洋酸性化研究の最新の状況を追った。
◆海中にCO2溶け込み
「海洋酸性化は貝やサンゴなどの生物に悪影響を与えるだけでなく、生態系への影響を通じ、海の生物に食料を依存する人々や観光業に影響を及ぼす可能性がある」-。1月に都内で開かれた酸性化と地球温暖化に関する国際シンポジウムで、モナコにある国際原子力機関環境研究所のデービッド・オズボーン所長はこう警告した。
海洋酸性化は、石炭などを人間が大量に使うことによって大気中の二酸化炭素濃度が高くなることが原因だ。現在の海水は弱いアルカリ性だが、大気中のCO2が海水に溶け込む量が増え、海水の酸性度が高まる。これが海洋酸性化だ。
日本の気象庁が北西部太平洋で長期間行っている海洋観測では1985~2016年の約30年間に、酸性度を示す水素イオン指数(pH)が平均で10年当たり0.018低くなっていることが分かった。
気象庁気象研究所海洋・地球化学研究部の石井雅男・第3研究室長は「日本周辺の太平洋でも酸性化が進んでいることは確実だ」と言う。
多くの科学者が懸念するのは、酸性化が海の生態系に深刻な影響を及ぼす恐れがあるためだ。
プランクトンや貝、ウニ、サンゴなど多くの生物が、海水中にある炭酸イオンを利用して炭酸カルシウムの骨格や殻を作っている。酸性化が進んだ海水中では炭酸イオンが減って、これらの生物が殻を作ることが難しくなり、さらに進むと殻が溶けてしまうことが分かってきた。
酸性化が、魚の嗅覚に影響を与えるとの研究例もあり、食物連鎖を通じて海の生態系に大きな悪影響を与えることが心配されている。