■ライバルがしのぎを削り課題を克服
2番目の原理ですが、体の肌の色は、血の色からつくり出されています。この血の色はヘモグロビンのヘムという物質によって構成されています。肌の色素、実はこれが透明化の邪魔をしており、色素をいかに取り除くかがもう一つの課題です。体や生き物を透明にするという研究はこれまでに100年くらい行われてきました。最初は油のようなものを使って、ドイツの有名な解剖学者の(ヴェルナー)シュパルテホルツが透明にすることを考えて試みました。それから約100年、世界中で同じような研究が行われてきましたが、うまくいきませんでした。ただ近年は、ようやく少しずつ前進し世界で大きく3つの陣営がしのぎを削って努力して、体を透明にするところにたどり着きました。3つの陣営にはどういうものがあるかというと、一つは水とは混じらない油のような有機溶媒を使用して透明にする。これは非常にパワフルなのですが、たんぱく質に優しくないという難点があります。一方で、親水性の溶媒を使って透明にするという陣営があり、これは日本が非常に強い技術分野となっています。3番目の陣営はゲルを使って組織を固めて油を電気泳動で流してしまうというものです。
私たちが透明化の研究を始めた2010年ころは、透明化には三者三様で良い部分もあれば悪いところもあり、体を透明化してその向こう側の病気や健康を見るのには不十分でした。私たちは親水性の溶媒を使った透明化をより強化し、この問題を解決しようと考えました。そこで、製薬会社がとっている戦略を参考にさまざまな化合物を試していくことを考えました。なかなか難しかったのですが、少し工夫してようやく透明な液を開発することができ、2014年春ごろに透明液を理化学研究所から発表しました。