中国で爆発的に普及する「シェア自転車」 “日本上陸”が難航する理由 (6/6ページ)

 「チャイナイノベーション」の成功は中国ならでは

 ここ数年、中国のIT企業は大いに力を付けている。シェアサイクル以外でも、アリババがスマホ決済システムの日本人向けサービス開始を発表、さらに良質な格安携帯やウェアラブル端末で知られるシャオミが日本進出を発表……と、日本をはじめ各国で中国式サービスを展開している。

 だが、すでに見てきたように、シェアサイクルは放置自転車規制がユルく、大量の人員を確保して自転車を回収できる中国のような国だからこそ「便利」なサービスとして発展した側面が大きい。

 また近年の中国で普及したスマホ決済システムも、店舗でモノを買うだけなら、日本や香港・台湾で普及する非接触型ICカード(Suicaなど)のほうがずっと便利だ。アプリの立ち上げ、QRコードの読み取り、金額の入力と手続きには面倒がともなう。

 中国でスマホ決済がローカル市場まで普及しているのは、新たに機器などを設置しなくても、QRコードを店頭に貼り付けるだけで導入できるからだ。また、それまで中国には全国をカバーするような送金システムが整っておらず、スマホ決済がそうした機能を代替した側面がある。

 注目を浴びる「チャイナイノベーション」は、中国社会が昔ながらの発展途上国的な社会ルールやインフラ不足を多く残していたところに、突如として都市部のスマホ普及率が9割を超える「サイバー社会」がやってきたことで生まれたともいえる。いずれのイノベーションも中国国内に限れば「便利」なのだが、すでにルールやインフラが整っている先進国に、そのまま持ち込むのは無理があるものも多い。

 日本社会の極端な保守性や決定速度の遅さと、発展途上国の社会に最適化しすぎた「チャイナイノベーション」--。モバイクやofoの日本展開が停滞している理由は、日中双方にそれぞれ事情が求められる。筆者としては中国国内におけるシェアサイクルの利便性をよく知っているだけに、なんとか頑張ってもらいたいと思うのだが、日本で気軽に乗れるようになる日は来るだろうか。

 安田 峰俊(やすだ・みねとし)

 ルポライター、多摩大学経営情報学部非常勤講師

 1982年滋賀県生まれ。立命館大学文学部卒業後、広島大学大学院文学研究科修了。在学中、中国広東省の深セン大学に交換留学。一般企業勤務を経た後、著述業に。アジア、特に中華圏の社会・政治・文化事情について、雑誌記事や書籍の執筆を行っている。鴻海の創業者・郭台銘(テリー・ゴウ)の評伝『野心 郭台銘伝』(プレジデント社)が好評発売中。

 (ルポライター、多摩大学経営情報学部非常勤講師 安田 峰俊)(PRESIDENT Online)