【理研が語る】まるで新生児期→乳幼児期の子供 ダイナミックな成長、ES細胞から見えてきた発生のメカニズム  (1/2ページ)

中央のくぼんだ部分がES細胞から誘導された立体的な網膜組織
中央のくぼんだ部分がES細胞から誘導された立体的な網膜組織【拡大】

  • 理化学研究所CDBの長谷川結子氏

 新生児期から乳幼児期の子供たちの著しい成長と発達には驚くばかりである。生まれて間もない赤ちゃんはまだ弱々しく、身体も思ったようには動かせない。しかし1歳児を見てみると、全身での運動や手先の使い方が格段に上手になり、言葉や身ぶりでの意思疎通も可能である。

 興味深いのは、個人差はありながらも「マイルストーン」と呼ばれる定型の発達指標があることだ。4カ月ごろに首がすわり、おすわりは6~7カ月ごろにできて、といったように、共通しやすい変化の目安がある。ということは、環境の微妙な違いはそれほど重要ではなく、むしろ生まれながらにして備わっている発達の基本プログラムのようなものが、この時期のダイナミックな成長を実現しているのではないだろうか。

 私は、胚性幹細胞(ES細胞)の“自律的”な分化という現象に注目して研究しているが、ES細胞の振る舞いは、このような子供の成長の様子とどこか似ているような気がする。例えば、数千個のES細胞を試験管の中に入れ、適切な種類の培養液で育ててやると、その後は特別な操作などしなくても、特定の組織にひとりでに変化していく。

 ES細胞を使った実験の興味深いところは、生体内とは異なり、周囲の組織からの影響を受けない条件が再現できることだ。だから、組織そのものの持つ性質を調べることができる。ES細胞は内在的な運命に従って、自分を特定の組織に変化させていると考えられるのだ。

 最近の研究で、私はES細胞から変化させた網膜の性質と、マウスやヒトの網膜の性質を詳しく比べてみた。すると、ES細胞から網膜ができる過程は、生体内で見られる特殊な形態形成(形の変化)や遺伝子の働きをとてもよく模倣していることが分かった。つまり組織自らの中に、一層の神経上皮を複雑な網膜という組織にまで成熟させるための、根本的な能力を備えていると考えられる。