【視点】気候変動への「適応策」好事例 注目集める治水システム「田んぼダム」 (1/3ページ)

 □産経新聞論説委員・長辻象平

 「田んぼダム」をご存じだろうか。気候変動に伴う豪雨の増加で、にわかに注目を集め始めている治水システムだ。

 巨費も不要で、完成までに長期の歳月も必要としない。それでいて、かなりの効果を期待できるのだ。

 田んぼダムは、本物のダムではない。水田が持つ貯水機能に着目した命名だ。大雨が降ったとき上流側の水田群に一時的に雨水をため、それをゆっくり放出すれば、下流側の水位上昇を抑制できる。

 これが田んぼダムによる洪水被害の軽減メカニズム。個々の田んぼにたまる雨水の深さは浅くても水田群の面積は広いので、総貯水量は莫大(ばくだい)なものになる。「浅く広く」が、田んぼダムの特徴だ。

 近年、水力発電を兼ねた多目的ダムなど大型ダムの建設は、環境保全への配慮や公共工事に対する批判などもあって困難になってきている。

 その一方で、激しい雨の降り方は勢いと頻度を増している。即効性のある田んぼダムへの関心の高まりは、気候変動に対する日本発の「適応策」の具体的な一例だ。

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 水田に田んぼダムの機能を持たせるには新たな装置が必要だが、追加装置は驚くほどシンプルだ。

 水田から水路に水を出す排水マス(畦(あぜ)に取り付けられている)の型式にもよるのだが、最も簡便な追加装置は、落水量調整板と呼ばれる直径5センチ前後の丸穴が開いた1枚の板でよい。

 排水マスが未整備の水田用には、樹脂製の軽量素材で作られた排水マスと落水量調整板がセットになった、田んぼダム用の装置も開発されている。畦道に重機を搬入することなく簡単に据え付けられるということだ。