ノーベル賞で増刷ラッシュ イシグロ作品快進撃続く 文庫部門トップ3独占も (1/2ページ)

 ノーベル文学賞が授与された長崎出身の英国人作家、カズオ・イシグロさん(63)。日本にルーツを持つ作家への関心は高く、作品は快調に売れている。日本語版を刊行する早川書房はノーベル賞受賞決定後だけでイシグロさんの既刊8作品を計115万部増刷。累計は214万部に達している。

 10月末に発表された調査会社オリコンの書籍週間売り上げランキング。文庫部門のトップ3には、▽英国のブッカー賞受賞作「日の名残り」▽綾瀬はるかさん主演でテレビドラマ化された「わたしを離さないで」▽最新長編「忘れられた巨人」、とイシグロ作品が並んだ。同一作家の別の作品が3位までを独占するのは史上初の快挙だった。

 「作品の底にある日本的な感性が広く受け入れられているのでは」と話すのは早川書房の担当編集者、山口晶さん。「ノーベル賞作家というと難解なイメージがあるが、イシグロ作品は物語性が豊かで面白い。1冊読んでまた別の作品を手にとる人も多いようで、売れる作品に広がりがみられる」

 イシグロさんの長編は全部で7作。人気作家としては寡作だが、SFやファンタジーの趣向も取り込んだ物語は多彩そのもの。世界文学に詳しい東京大学の沼野充義教授は「注文に応じるままに書くのではなく、時間をかけて丁寧に構想を温め、常に新しいチャンレンジをする作家」と1作1作の質の高さが読者をつかむ力になっているとみる。

出版不況打開の起爆剤との期待も