上から目線の英米、知的正当性なく

英語圏の知的正当性は失われつつある?(ブルームバーグ)
英語圏の知的正当性は失われつつある?(ブルームバーグ)【拡大】

 数年前、ロシアのプーチン政権や中国の習政権といった権威主義的な体制では「アングロサクソンの説教」疲れが顕著にみられた。そして最近、欧州の主要メディアにもこうした論調が浮上している。英国の欧州連合(EU)離脱やトランプ米大統領の誕生を受けて、英語圏の知的正当性が失われつつある。

 ◆皮肉ちりばめ不満

 11月2日、スペインの新聞「エル・パイス」に、論説員のホセ・イグナシオ・トレブランカ氏による「Anglocondescension(アングロの上から目線)」と題する英文コラムが掲載された。同コラムは、カタルーニャ自治州独立をめぐる住民投票にスペイン政府が厳しい姿勢を取ったことを英語圏の有識者らが批判している点について、皮肉をちりばめながら不満を表明。「われわれがカタルーニャ自治州前首相のカルラス・プチデモン氏とその協力者らの脅迫に屈せず、彼ら(英米の知識人)と同様に自国の憲法を守りたいと思っているため、大いに失望を感じて論説欄や意見欄で嘆いている」と書いた。

 エル・パイスは最近、有力な英国人コラムニストのジョン・カーリン氏を解雇した。カーリン氏はフェリペ6世国王およびスペイン政府がカタルーニャ問題を和解に導くことを拒否したと批判しており、解雇はこれを受けた措置である。米誌「コロンビア・ジャーナリズム・レビュー」はこの件について、同紙の極端な親政権ぶりを示す兆候だと指摘した。

 実際そうかもしれないし、エル・パイスがこの親カタルーニャの異質な記事を発表してもかまわないが、同社は「アングロサクソン」の知識人が与える助言に恩義を感じてはいない。ここでの問題は、コラムがどのように書かれるかということではなく、米国と、その最も近い同盟国である英国が、リベラルな世界秩序の時代に政策決定や世界の知的議論に果たしてきた過大な役割に対する憤りなのである。

 トレブランカ氏は、このような助言をもはや気にする必要はないと考えている。そして、英米の知識人には「スペインの『未熟な』民主主義、フランコ主義を踏まえて想定される問題点、そして気まぐれな国民性という差別的な見解について語るときの上から目線」があると指摘した。トレブランカ氏はさらに、このように偉そうな意見を繰り出す英国と米国は「ここ1年で心中した」と述べる。つまり、不快な右翼分子、程度の低い政治家、そして不誠実なメディアが寄り集まって、お粗末なリアリティーショーを繰り広げ米国ではトランプ氏という道化者に権力の座を与え、英国ではEU離脱という壮大な愚行を招いたということだ。

 このような意識はスペインに限ったものではない。ドイツでは11月、親米派の学者グループが独紙「ディー・ツァイト」と米紙「ニューヨーク・タイムズ」で発表した声明で、米国がトランプ政権であろうがなかろうがドイツの外交政策は汎大西洋主義を基本とする必要があると主張し、論争のきっかけをつくった。著名な評論家のヨルグ・ラウ氏とベルント・ウルリッヒ氏はこれに反論し、米国主導ではない世界に適応すべきときが来ていると指摘。もはや汎大西洋主義は現実と乖離(かいり)していると主張した。

 トランプ政権が終わって、米国が元の役割に戻るまで待てばよいと考える者もいる。しかし実際のところ、大西洋主義の問題はトランプ政権になって生じたわけではなく、トランプ政権の終焉(しゅうえん)とともに終わるわけではない。大西洋主義者はなぜこの点を理解しようとしないのだろうか。

 ドイツのラウ氏とウルリッヒ氏によると、支配よりも和解と協調を重視する現在のドイツは、世界の新たな秩序を形成する局面で良好なポジションにいるかもしれない。これは地政学的な主張ではなく、哲学的な主張である。

 ◆独は強迫観念持たず

 英米の有識者は、第二次世界大戦の勝利でもたらされた道徳的に優位な立場から発言することはもはやできない。1940年代の出来事が遠い過去になるにつれて、英語圏の社会の道徳面、知的面の衰えが、相対的に大きな意味を持ちつつある。

 ドイツはもう、安全保障や貿易に関する政策について、英米の助言に従わなければならないという強迫観念を持っていない。そしてスペインは、分離主義者に厳然とした態度で対処する権利があると主張している。まさに米国と同じような手法を取るということだ。このような世界情勢では、もはや対立軸はリベラルと非リベラルという単純なものではない。民主主義、国家体制、社会的保護のモデルが異なれば、そこにも対立が生じる。EU離脱とトランプ大統領の影響で、こうした議論が過熱する可能性があるが、議論に上る選択肢が増えるという意味では、より面白くなるともいえるだろう。(コラムニスト Leonid Bershidsky)

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 Leonid Bershidskyは、ブルームバーグ・ビューのコラムニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解で、必ずしもブルームバーグ・エル・ピー編集部の意見を反映するものではありません。