【第27回地球環境大賞】寄稿 WWFジャパン・山岸尚之

 □WWFジャパン 自然保護室 気候変動・エネルギーグループ長 山岸尚之

 ■ルールブック策定交渉の進展とタラノア対話の成立 COP23、不十分な進展ペースも国連交渉としては堅実

 ◆COP24での策定目指す

 ドイツ・ボンで国連気候変動枠組条約第23回締約国会議(COP23)が開催された。会期は11月6~17日だったが、1日延長し18日早朝に終了した。

 今回は、議長国はフィジーだが開催地はドイツ・ボンという、やや特殊な形で開催された。

 COP23の主な目的は、パリ協定を実際に運用していくための細則「ルールブック(実施指針)」に関する交渉だった。現在の予定では、2018年12月のCOP24(ポーランド)での策定を目指している。

 結論から言えば、今回の交渉の進展度合いは、COP24という“締め切り”を考えれば不十分なペースではあったが、過去の国連交渉のペースからすると、順調とは言えないまでも、堅実に進んだといえる。交渉の途中経過をまとめた文書が作られ、次回の会合(2018年4月末から5月初旬)でも引き続き議論がされることになった。

 ◆現実と大きなギャップ

 今回の会議の主要議題ではなかったものの、議長国であるフィジーや、WWFを含む環境NGOがもっとも重要視したトピックが、「タラノア対話」の設計と発足だった。

 パリ協定の下では、5年サイクルでの目標改善のプロセスがある。その最初の機会となるのが、2018年の「促進的対話」と呼ばれるイベントで、その開催はパリ協定と同時に決まった。そのイベントの設計は、COP23で決めることになっており、議長国のフィジーは「促進的対話」について、自国の言葉で「誰も拒まない、オープンな対話」を意味する「タラノア」という言葉を冠して、成立を目指した。

 5年サイクルの改善プロセスの目的は、現状、パリ協定の目的に照らして、明らかに足りていない各国の取り組みを強化することにある。国連環境計画(UNEP)が会期直前に出した報告書でも、パリ協定の大目標(産業革命前からの世界の気温上昇を2℃未満より十分低く抑えるとともに、1.5℃に抑える努力をする)と現実の間に大きなギャップがあることが再度確認された。

 このギャップを少しでも埋めていくには、5年ごとの目標改善がカギを握る。そのため、各国が「タラノア対話」を通じて国別目標を改めて見直すという決定をCOP24で出すことが期待される。パリ協定とともに採択されたCOP21の決定では、各国は2020年までに国別目標を再度提出することになっている。日本も、すでに一度提出した2030年目標(温室効果ガスを2013年度比26%削減)があるが、他の多くの国と同様、不十分な目標であるため、タラノア対話を経て、改めて見直し、提出すべきである。

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 ◆「2020年までの取り組み」

 COP23の議論の中で、当初の予定にはなかったものの、厳しい意見対立を引き起こしたのが、「2020年までの取り組みの強化」だった。

 この問題は、イラン、中国、インドなど一部の途上国グループが会議開始直前、このトピックを議題として追加するよう提案したことで始まった。背景には、次のような途上国の強い不満がある。

 パリ協定は基本的に2020年に始まるため、「ルールブック」の議論も2020年以降の取り組みが議論の対象になる。前述したタラノア対話も、主たるトピックは2025年目標や2030年目標であり、2020年以降の取り組みが議論の対象といえる。そして、その2020年以降の取り組みは、パリ協定の下で、従来の「先進国/途上国」の二分論ではなく、「国による差異は認めつつも、全ての国が取り組んでいく」体制への移行が議論の前提としてある。

 しかし、パリ協定成立に向けた交渉の前提として、「2020年までの取り組みは先進国が主導する」ことになっていた。実際は、2020年までの先進国の取り組みは不十分なままで、いつの間にかそれは不問に付された状態になり、議論は「2020年以降」の取り組みに移行しつつある。そこに歴史的にもっとも責任がある米国のパリ協定離脱宣言が加わった。

 途上国には、こうした状況は著しく公平性を欠くと見え、当初は一部の意見だったものが、途上国全体の主張となっていった。

 COP23ではこの議論に関する意見対立が長引き、第2週目に入ってようやく妥協点が見いだされた。最終的には、2018年と翌19年のCOPで、2020年までの取り組みをレビューすることになった。

 ◆注目集めた米国「代表団」

 COP23で注目を集めたのが、米国の「代表団」だった。パリ協定離脱宣言があったものの、米国は今でもパリ協定の締約国であり、COP23に代表団を派遣していた。代表団の交渉官のメンバーは、オバマ前政権時と同じメンバーだったが、その発言頻度は以前より少なくなっており、存在感は低下していた。

 正規の代表団より目立っていたのは、米国の州政府、企業、都市など非国家主体による“代表団”だった。彼らは、「We Are Still In(私たちはパリ協定にとどまる)」という連盟の名の下に集う2500以上の団体・組織で、ボンの国連会議場の外に独自のイベント会議場を設け、自分たちの取り組みをアピールしていた。

 同連盟が会期中に発表した報告書「America’s Pledge」によると、この連盟に参加する主体は、米国の総人口・GDP・温室効果ガス排出量のそれぞれ49%、54%、35%を占めるという。パリ協定の実施を支えるのは、国家だけではないということを示す象徴的な事例である。

 ◆高まる脱石炭の流れ

 もう1つ顕著だったのは、世界の「脱石炭」の流れだった。会期中、カナダ、英国主導で「Powering Past Coal Alliance」という国や州政府による連合体が発足した。その名前の通り、高効率なものも含め、脱石炭を目指す連合で、25の国・州・都市の政府が発表時に名を連ねた。

 一方、日本の石炭火力発電推進の姿勢に対しては、環境NGOから「化石賞」が贈られるなど、風当たりの強さを目の当たりにした。

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【プロフィル】山岸尚之

 2003年に米ボストン大大学院修士号を取得後、WWFジャパンで温暖化とエネルギー政策提言に従事。