九州北部豪雨 想定以上の被害、遠い山村再生

2011年9月の豪雨災害後に建設された奈良県十津川村の村営住宅「高森のいえ」=2017年12月
2011年9月の豪雨災害後に建設された奈良県十津川村の村営住宅「高森のいえ」=2017年12月【拡大】

  • 昨年7月の豪雨被害後、ほとんどの住民が家を離れた福岡県朝倉市の石詰地区。山肌には土砂崩れの跡が残る=4日午後

 昨年7月に起きた九州北部の豪雨は、過疎・高齢化が進む山間部の集落に被害が集中した。5日で発生から半年が経過。山村は復旧から取り残され、将来の存続も危ぶまれる。流木対策など全国の中山間地域で浮上する災害リスクとの共存を模索しつつ、再生への道筋をどう描くか。重い課題が突き付けられている。

 ◆九州 流木20トン

 至る所で茶色い山肌が露出し、幹が折れかけた木々が風にあおられている。18世帯が住んでいた福岡県朝倉市の石詰地区。寸断した生活道に代わる仮設道路の脇には、ひしゃげたガードレールが寄せられ、街灯は全て流されたままだ。今は1世帯だけが残る。

 住民のほとんどが年金で暮らす高齢者だった。「散り散りになり、電話で連絡するぐらい。孤独死が出ないか心配だ」。市内の仮設住宅に身を寄せる区長の小嶋喜治さん(62)がこう漏らす。

 点在する他の集落も似たような風景が広がる。復興計画を策定する市に、石詰地区は隣接する山林に新たな宅地を整備するよう要望している。だが「本当に集落が再生できるだろうか」。

 豪雨では福岡、大分両県の約260カ所で土砂崩れが発生。土石流は放置された間伐材を巻き込み、集落を直撃した。流木は推計20万トンに上る。

 「全国約1200地区で緊急の流木対策が必要」。林野庁は豪雨後、山地災害の恐れがある約18万地区の点検結果を公表した。国は約600億円を投じ、流木化する危険性が高い立ち木の伐採などを進める。

 住民避難の難しさも浮き彫りになった。福岡県東峰村は5年前の豪雨災害を教訓に、手助けが必要な高齢者のリストを作り、実践的な避難訓練を重ねてきた。

 だが当日は雷雨で防災無線が聞こえず、公民館も土砂にのまれた。「対策に最善を尽くしたが、ここまでは想定できなかった」と岩橋忠助副村長。村内で3人が死亡し、孤立した集落もあった。

 ◆奈良 高台に村営住宅

 三重、奈良、和歌山の3県で88人の死者・行方不明者が出た2011年9月の紀伊半島豪雨。被災地の奈良県十津川村は6年かけて新たな集落づくりを進めてきた。約4000人だった人口は流出に拍車が掛かり約3400人に。65歳以上が4割を占める。打開策として打ち出したのが「山村型コンパクトシティー」だ。

 過去の災害記録などを分析し、比較的リスクが低いとされた高台に、地元のスギを使った村営住宅「高森のいえ」を建設。昨年4月に入居が始まり、9世帯14人が暮らす。村唯一の老人ホームと接し、訪問診療も受けられる。山あいの住居を集約することで、災害時の円滑な避難・救助につながる利点もある。

 「生まれ育った山の暮らしを続けられる。仲が良い集落の人も近くにいて心強い」。入居する松井フユノさん(91)は村の計画を知り、故郷に残る決断ができた。

 各地の自治体や大学はモデルケースとして注目する。村の担当課は「慣れ親しんだ地域を離れたくない住民の思いと安全を両立させながら、持続的な発展を目指したい」と話している。

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 片田敏孝・東大特任教授(災害社会工学)「今回のような規模の局地的豪雨では山林が持つ保水力を大きく超え、土砂崩れが起きてしまう。間伐などの治山対策をどれだけ取っても防ぎようがない災害といえる。短時間のうちに河川が氾濫し、周辺住民が指定避難所までたどり着けないケースもあった。温暖化などの影響によって、こうした集中豪雨は全国のどこでも発生する恐れがある。住民が高齢化した山間部では、近くの高台など生活圏内に安全に避難できる場所を確保するなど、対策を真剣に考えなければならない」

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 豪雨被災地を支援する九州大の三谷泰浩教授(地盤工学)「大きな被害に遭った山間部集落の住民は当初、強い恐怖心があったが、被災から半年が経過し、住み慣れた場所で生活再建を図りたいとの思いに変わり始めている。お互いをよく知り、助け合ってきたコミュニティーへの愛着もある。だが山間部で暮らす災害リスクが減ったわけでなく、集落の再生は容易ではない。行政は復旧事業によって住民が戻れる環境を早期に整えるとともに、住民と協議を重ねて避難態勢の見直しを図るなど、将来の災害に備えて防災力を強化していく必要がある」