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中川英刀氏
中川英刀氏【拡大】

  • 十倉好紀氏

 □理化学研究所 創発物性科学研究センター 強相関物理部門 強相関物性研究グループ グループディレクター・十倉好紀

 ■磁壁におけるトポロジカル電流を観測

 内部は電流が流れない絶縁体なのに、表面ではトポロジー(位相幾何学)で守られた金属状態を示す物質に、クロムのような磁性元素を添加した「磁性トポロジカル絶縁体」では、磁化が発生し、それに伴って試料の端っこに一方向にだけ流れる「トポロジカル電流」が発生する。

 このとき、磁区(N極・S極の領域)の境目である「磁壁」でも、トポロジカル電流が生じることが理論的に予言されていた。この電流は向きや位置を制御できるため、低消費電力素子への展開が期待される。しかし、磁区を作ることが難しく、磁壁におけるトポロジカル電流はこれまで観測されていなかった。

 磁気力顕微鏡では、磁石で覆われた探針で物質表面をなぞることで磁区構造を可視化できる。この磁気力顕微鏡を用いて、今回、理研を中心とした共同研究グループは磁性トポロジカル絶縁体上に任意の磁区を書き込む手法を新たに確立した。磁区形成後の素子に対して電気伝導測定を行ったところ、単一磁区の状態とは異なる特徴的な量子化した抵抗と磁壁でのトポロジカル電流の存在を初めて確認した。さらに、1つの素子内にさまざまな磁区構造を形成すると、トポロジカル電流の流れおよび量子化抵抗を自在に制御できた。

 本研究により、トポロジカル電流を用いた新しいスピントロニクスデバイスの基礎原理が実証された。今後、電流での磁壁駆動による次世代磁気メモリの構築などが期待できる。

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【プロフィル】十倉好紀

 とくら・よしのり 1981年東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻博士課程修了。2007年、理化学研究所グループディレクターを経て、2013年より現職。現在、東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻教授(1995年~)を併任。

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 ■コメント=物質の磁性とトポロジーの融合による創発物性の開拓を目指しています。

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 □理化学研究所 統合生命医科学研究センター ゲノムシーケンス解析研究チーム チームリーダー・中川英刀

 ■炎症性腸疾患からの発がん機構の解明

 大腸および小腸の粘膜に慢性の炎症または潰瘍を引き起こす疾患を総称して、「炎症性腸疾患(IBD)」という。IBD患者はIBDを原因とするがん「Colitic cancer」の発生リスクが非常に高く、がんやその前がん病変が見つかった場合には、大腸全摘などの手術が必要となる。通常の大腸がんの発生メカニズムは詳細に解明されているが、Colitic cancerにはそのメカニズムが当てはまらないと考えられており、ゲノム解析による詳しい研究が求められていた。

 今回、理研を中心とした共同研究グループは、兵庫医科大学病院のIBD患者に発生した90例のColitic cancerについて網羅的ゲノム解析を行った。その結果、通常の大腸がんにおいてはAPC遺伝子変異が60~90%と最も多く起こっているのに対し、Colitic cancerではAPC遺伝子変異は15%と少なく、TP53やRNF43の遺伝子変異がそれぞれ66%、11%ずつ検出された。これは、通常の大腸がんとは異なる遺伝子変異でColitic cancerが発生することを示している。さらに、RNF43遺伝子変異のあるColitic cancerはIBDの経過期間が長く、一方でAPC遺伝子変異のある症例はIBDの経過期間が短く通常の大腸がんと類似していることが分かる。

 本成果は、APC、RNF43、TP53の遺伝子変異を調べることによって、発生したがんの原因がIBDかどうか推定できる可能性を示しており、Colitic cancerの手術や治療方針の決定に貢献すると期待できる。

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【プロフィル】中川英刀

 なかがわ・ひでわき 1991年阪大医学部卒、同大第2外科などでがん診療に従事。米オハイオ州立大研究員、東大医科研准教授を経て、2008年より現職。がん診療の経験を生かして、がんゲノム研究に取り組んでいる。AMEDのゲノム医療の推進事業にも携わる。

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 ■コメント=IBDからの発がん機構が解明されたことで、IBDのゲノム医療がすすんでいくことを希望する。

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 ■「理研DAY:研究者と話そう」開催

 理研は、毎月(4月除く)第3日曜日に研究者と一般来場者のトークイベント「理研DAY:研究者と話そう」を開催している。1月のテーマは「性格と脳内物質」。人の個性がそれぞれ違うのは脳内物質の違いによるものとされており、イベントでは脳内物質とは何か、脳内物質には何があるのか、どうしたらほかの人とうまくやっていけるのかなどについて来場者とトークを繰り広げる予定。

 ◇日 時1月21日(日) 第1回 14:00~14:30

              第2回 15:30~16:00

 ◇会 場 科学技術館4階シンラドーム(東京都千代田区北の丸公園2-1)

 ◇料 金 無料(科学技術館入館料は必要)

 ◇定 員 各回62人(当日先着順)

 ◇講 師 ライフサイエンス技術基盤研究センターの高橋佳代(たかはし・かよ)上級研究員

 ◇問い合わせ 理化学研究所広報室 E-Mail:outreach-koho@riken.jp