【寄稿】パリ協定時代は非国家アクターも主役!

COP23?期間中、WWFパビリオンを訪れたマクロン仏大統領=ドイツ・ボン(C)WWFジャパン
COP23?期間中、WWFパビリオンを訪れたマクロン仏大統領=ドイツ・ボン(C)WWFジャパン【拡大】

  • WeAreStillInの会場では「米国の約束」が発表された=ドイツ・ボン(C)WWFジャパン

 ■マクロン仏大統領がWWFと意見交換

 □WWFジャパン 自然保護室次長/気候変動・エネルギープロジェクトリーダー 小西雅子

 ◆COP23での象徴的な出来事

 ドイツ・ボンで昨年11月に開催されたCOP23(国連気候変動枠組み条約第23回締約国会議)の期間中、フランスのマクロン大統領が、COP会場内のWWFパビリオンを訪れました。パリ協定の推進リーダーの1人であるマクロン大統領は、多忙な日程を縫って、世界の市民社会の一員であるWWFと意見交換するため、ユロ仏環境大臣とともにやってきたのです。

 米国のトランプ大統領が昨年6月、パリ協定離脱を宣言した数時間後に、「米国を再び偉大な国にする」と訴えたトランプ大統領に対し、マクロン大統領は「地球を再び偉大にしよう」と呼びかけ、世界から喝采を浴びました。

 WWFは、マクロン大統領と30分間にわたり意見交換し、「化石燃料と原子力から再生可能エネルギーへの移行を着実に進めること、欧州連合(EU)が削減目標を引き上げる先導役を果たすこと、世界の気候変動対策のリーダーシップを発揮すること」などフランスへの期待を伝えました。

 分刻みで日程をこなす主要国の大統領と環境大臣が、環境NGOとの対話に時間を割き、自ら足を運んできたことは、温暖化問題がいかに重要な政策課題であるか、そして市民社会がいかに大きな役割を担っているかを象徴する出来事といえます。

 WWFパビリオンは、マクロン大統領を待ち受けるCOP参加者が3時間前から人垣を作り始め、2人が現われると周りは熱気と興奮に包まれました。警護を押しやって語りかけ、握手を求め、写真を撮ろうとする人々でもみくちゃになる中、マクロン大統領は終始笑顔で応えていました。世界全体で気候変動対策を進めるパリ協定を守ろうとするリーダーシップは、国を超えて人々の尊敬を集めることを実感しました。

 COP23閉幕後の12月12日には、マクロン大統領が提唱した環境サミット(ワンプラネット・サミット)がパリで開かれ、金融面からの気候変動対策が話し合われました。これは、トランプ政権が、途上国の気候変動対策を支援するための資金拠出をやめると表明し、パリ協定下の資金支援に不透明感が広がるのを少しでも抑えるための努力です。マクロン大統領をはじめとする先進的な各国首脳陣のリーダーシップが今、必要とされています。

 ◆パリ協定と非国家アクター

 パリ協定は「世界を脱炭素化する」ことを掲げています。こうした政府だけでは非常に困難だった野心的な国際合意は、都市や自治体、企業、市民団体などが国を超えて先進的な気候変動対策を推進すると表明することによって実現しました。

 こういった非国家アクターのイニシアチブを登録する国連気候変動枠組み条約のウェブサイト(※1)には、すでに世界各国から約1万2500もの主体(2508都市、209地域、2138企業、479投資家、238市民社会団体)が登録しています。

 非国家アクターの存在感は年々増す一方で、それに伴ってCOP会議に直接参加して活発に自らの先進的な気候変動対策をアピールするアクターも増えています。COP23でも、非国家アクターのイベント会場が多く設けられ、先進的な企業同盟や都市同盟が競って自らの気候変動対策をアピールしていました。

 ◆米国の自治体のイニシアチブ We Are Still In

 COP23で特に注目を集めた非国家アクターは、米国の自治体や都市が結成した「We Are Still In」でした。パリ協定離脱を宣言したトランプ大統領に対抗して、米国内の2500を超える州政府、都市、大学、企業が「私たちはパリ協定の中にいる(We Are Still In)」というイニシアチブを立ち上げたのです。COP23の会場の隣に大々的なパビリオンを設け、州知事や企業リーダーら100人近くが集結し、「連邦政府だけが米国ではない。実際の米国のリーダーたちはパリ協定の目標を達成していく」と、次々と決意を表明していきました。

 今年9月に気候変動サミットを主催するカリフォルニア州のジェリー・ブラウン知事らは、国連気候変動枠組み条約のエスピノーザ事務局長の前で、パリ協定の約束を守っていく州などの排出削減目標を定量化する報告書「米国の約束」を発表し、たとえ連邦政府が後ろ向きな行動をとっても、米国の温暖化対策が進んでいくことを強調しました。

 米国は世界1位の経済大国であり、世界2位の温室効果ガス排出国です。We Are Still Inに参加する州政府や市などの自治体を合わせると、米国の人口の50%、GDP(国内総生産)の54%、温室効果ガス排出量の35%を占めます。これを国に見立てると、経済力で世界3位、排出量では4位の“国”ということになります。排出量は日本の2倍の規模です。これだけの規模の集合体が、パリ協定を守ると宣言したことは、交渉に臨む他の国々にとって大きな安心材料になりました。

 ◆その他の非国家アクターたち

 米国の非国家アクターだけが気を吐いていたのではありません。脱炭素化を目指すパリ協定と科学的に整合する排出削減目標を持つ企業のイニシアチブ「SBT(Science Based Targets)」もイベントを開催し、メンバー企業のトップたちが意見交換しました。SBTの参加企業は現在、世界の333社にのぼり、うち日本企業は42社(1月9日現在)を占めます。多くの日本企業が、国を超える気候変動対策を率先して約束することは、大いなる希望を感じさせます。

 また、世界の90を超える大都市が参加するC40(Cities Climate Leadership Group)のうち、1億5000万人の人口を抱える25都市が、「2050年に温室効果ガス排出ゼロ」を約束するイニシアチブを立ち上げました。それぞれの市長が気候行動の重要性を訴えるスピーチを行い、会場から拍手喝さいを浴びていました。

 C40には東京都や横浜市も参加していますので、「2050年排出ゼロ」のイニシアチブにも名前を連ねる日が来ることを期待したいと思います。

 このほか、事業で使用する電力を再生可能エネルギー100%にすることを目指すイニシアチブであるRE100など、多くの先進的な非国家アクターたちによる発表が2週間のCOP23会期中に熱く行われました。

 パリ協定のもとで、非国家アクターの役割はより増大していきます。「脱炭素経済」を目指すパリ協定は、新しい経済成長の“種”を育てるチャンスです。企業や自治体が国を超えて気候変動対策を先導するようになれば、政府の対策を後押しすることにもなります。

                  ◇

 ※1 非国家主体のイニシアチブ「グローバル気候行動(GCA)ナスカ・プラットフォーム」=http://climateaction.unfccc.int

                  ◇

【プロフィル】小西雅子

 昭和女子大学特命教授。日本気象予報士会副会長。ハーバード大修士。民放を経て、2005年から温暖化とエネルギー政策提言に従事。