女性判事退任なら人権保護に影響も

インドネシアの憲法裁判所の女性判事、マリア・ファリダ・インドラティ氏(ブルームバーグ)
インドネシアの憲法裁判所の女性判事、マリア・ファリダ・インドラティ氏(ブルームバーグ)【拡大】

 インドネシア初の、そして唯一の憲法裁判所の女性判事、マリア・ファリダ・インドラティ氏があと数カ月で任期満了を迎える。宗教的保守主義が勢いを増しつつある同国において、女性の人権保護に影響が出る可能性が指摘されている。

 同国では差別、家庭内暴力、児童婚、女性の政治参加の問題がたびたび浮上するが、憲法裁判所の判事はインドラティ氏が退任すると男性ばかりとなる。ブルームバーグのインタビューでインドラティ氏は「私が提供する視点は同僚の男性たちの視点とは異なる」と述べた。

 ◆婚姻年齢上げに賛成

 後任判事は3人の候補者の中からジョコ大統領が任命する。その人物が男性と決まったわけではなく、検討すべき優秀な女性が何人かいるとインドラティ氏はみている。インドラティ氏は、インドネシア大学の法学講師や議員の法案作成補佐を務めた後、2008年にユドヨノ前大統領から判事に任命された。

 同国では、法学部の女子学生は法廷以外でのキャリアを目指す傾向がある。インドラティ氏によると、その理由は「女性は理屈っぽいと思われることや、議論を戦わせることを好まないから」だ。インドラティ氏は、女性の人数を割り当てるクオータ制度では裁判官を含む公職への女性参加を促す解決策にはならないと指摘。「女性がこの役割を引き受けることを恐れなくなることも重要だ」と話す。

 公式な経歴紹介によると、インドラティ氏は若いころはピアノ教師になることを夢見ていたが、教員出身でジャーナリストだった父親の助言に従った。父親は自身が法学の学位を取得できなかったため、娘に法律の専門家になることを託して勉学を後押ししたという。

 インドラティ氏は、ジェンダーやマイノリティーに関する複数の裁判に関わってきた。

 憲法裁判所は15年、女性の最低婚姻年齢を16歳から18歳に引き上げることを求める人権団体が提出した、婚姻法の違憲審査請求を棄却した。その際、インドラティ氏のみが反対意見を述べ、婚姻年齢を引き上げることで少女たちの未来を守る機会が増えると指摘した。

 また同裁判所が17年末に、婚外性行為や同性愛を非合法化して懲役刑の対象にすることを求める保守派学者らの訴えを5対4で棄却したときも、インドラティ氏は判決を決定づける票を投じた。

 女性への暴力に対する全国委員会で理事を務めるインドリ・スパルノ氏は「女性判事がいるからといって、必ずしも法律が女性に味方するわけではない。しかし女性判事が一人もいなくなれば、女性の進歩がより難しくなるだろう」との見方を示す。

 ◆宗教保守主義が台頭

 東南アジア最大の経済国であるインドネシアは、穏健なイスラム教国のモデルと見なされている。イスラム教徒が多数を占めるその他の国々と比べて、ジョコ大統領はより多くの女性を上級職に登用してきた。同国では34人の閣僚のうち9人が女性だ。ジョコ大統領はまた16年、女性と子供に対する暴力に関する初の全国調査を実施した。

 しかし、ジョコ大統領は軍人や警察官を志願する女性の処女検査の撤廃を求める人権団体の訴えには、沈黙を守っている。また、同国では宗教的保守主義の台頭で、女性の人権をめぐる懸念が高まっている。例えば、出会い系アプリ「アヨポリガミ(『一夫多妻になろう』の意味)」や、「最速で4人の妻を持つ方法」と銘打ったセミナーは大きな議論を巻き起こした。同国ではイスラム教徒の男性が4人まで妻を持つことを、裁判所の許可と1人目の妻の承認を条件に認めている。

 もっとも、最低婚姻年齢を16歳とする法律に対しては、インドラティ氏の在任中に再び異議が申し立てられる可能性がある。

 女性の権利を擁護する活動家らによると、若くして結婚する女性は進学してキャリアを築くことができないため、30年まで続く「人口ボーナス」(労働年齢人口が高齢者人口を上回る時期)の恩恵を受けられない。

 政府は女性の職場進出を促したい考えだ。しかし女性の健康に関する基金の会長で、婚姻法の違憲審査請求に参加したズムロティン・スシロ氏によると、16歳での結婚を認めた場合、その女性は職場への参加がかなわず、家庭に入って家族の世話を行わざるを得なくなる可能性が高い。

 インドネシア中央統計局が実施した10年の国勢調査によると、15~64歳の女性7800万人のうち、学位取得者は8.5%に相当する670万人。大学院を終了した者は約50万人だった。(ブルームバーグ Rieka Rahadiana、Yudith Ho)