風味持つカキ、仏養殖家が描く世界

フレーバー付きカキは世界を席巻できるか。写真は米ニューヨークのオイスターバー(ブルームバーグ)
フレーバー付きカキは世界を席巻できるか。写真は米ニューヨークのオイスターバー(ブルームバーグ)【拡大】

 フランスでカキ養殖業を営むジョフリー・デュボー氏は、自分が思うままの世界をつくれると信じている。それは、ラズベリーやショウガの風味を持ったカキが席巻する世界だ。

 デュボー氏は、両親や祖父母の世代ほどカキを好まない若者を魅了しようと、数カ月前からフレーバー付きカキの販売を始めた。地元のカキ好きには鼻で笑われるが、木箱に入れたこれらのカキを、遠くは香港にまで輸出している。

 ◆若い世代取り込み

 「一つ一つにレモンをかける必要がなくなれば、若い世代にも夕食前の一杯とともにカキを食べる楽しみに気づいてもらえると考えた。中国やドバイ、スペイン、ベルギー、イタリアのレストランはこのアイデアを気に入ってくれたようだ」と、デュボー氏は電話取材で語った。

 欧州がホリデーシーズンのピークを迎えるころ、フランスの大西洋沿岸の町、マレンヌにあるデュボー氏の養殖場からは、レモンやシャーロット、甘口ワイン、ショウガ、ラズベリーの風味のカキが1日に1、2トン出荷されていた。デュボー氏はフランス国内のスーパーマーケットとも販売契約をしているが、フレーバー付きカキの約60%は海外に輸出される。

 デュボー氏は「フランスでフレーバー付きカキはこれからの商品だが、アジアでは高い需要がある。高級レストランや卸売業者によって、高額で販売される場合もある」と話した。デュボー氏が業者に販売する際のフレーバー付きカキの価格は12個当たり約15ユーロ(約1970円)。既に養殖場の売り上げの4分の1以上を占め、2018年は売り上げが2倍になるとデュボー氏は予想している。

 父親もカキ養殖家だったデュボー氏は、大西洋沿岸にあるオレロン島でカキ養殖が盛んな地域で育った。地元の多くの若者と同じように、働き場所として海を選び、貝漁師を経て13年にカキ養殖を始めた。主な出荷先はパリの市場だった。

 しばらくしてフレーバー付きカキのアイデアを思いついた。実現する方法を見つけるのには少し時間がかかったが、各種フレーバーのついた海水にカキを2~12時間漬ける方法にたどり着いた。

 昨年4月、欧州最大の水産見本市、ブリュッセル・シーフード・フェアにフレーバー付きカキを出品したデュボー氏は、手応えを感じた。好奇心旺盛な中国料理店のオーナーたちがブースに立ち寄ったのだ。

 この見本市をきっかけに、デュボー氏のもとには山のような注文が入るようになった。デュボー氏の養殖場は2ヘクタールとフランスの平均(5ヘクタール)と比べ小規模なため、近隣の同業者からカキを買い付ける必要が出てきた。

 ◆顧客層縮小を懸念

 フランスにはカキの名産地が7カ所あり、それぞれの産地が数種類の銘柄を売りものにしている。土や水など養殖の環境によって大きさや形、そして味が異なる。

 名産地の一つ、英仏海峡に面するカンカルでは、養殖家のアレクサンドル・プロドム氏がフレーバー付きカキに関心を持っていた。プロドム氏は祖父母の代から受け継いだ手法で質の高い養殖に特化してきたが、カキ愛好家の高齢化に伴い、顧客層が縮小していることを懸念していた。

 プロドム氏は「特に45歳以下の多くは、気軽に二枚貝を食べているもののカキには抵抗があるようだ。堅い殻に包まれた肉厚のカキに高い金を払おうという人が少なくなった」と話す。そして、フレーバー付きカキはそうした世代の新たな関心を呼ぶかもしれないと期待を寄せている。

 一方で、フレーバー付きカキを冒涜(ぼうとく)と考える人もいる。パリ10区で「プレーヌ・メール」という名のオイスターバーを経営するエリック・マイエール氏にとって、カキにフレーバーがあるというのは単純に恐ろしい考えだ。「ばかばかしい。カキはそんなことを望まないし、風味が損なわれる。カキは生き物なのだから」。マイエール氏はこう言い切った。

 デュボー氏にしてみれば、マイエール氏のような頑固者がフランスの市場を硬直させた張本人だ。それでも、このことは今のデュボー氏の悩みではない。デュボー氏はフランス最大のスーパーマーケット、E・ルクレールと契約を交わしたものの、海外需要に応えるのがやっとの状態なのだ。

 デュボー氏にはフレーバー付きカキの宣伝ウェブサイトを立ち上げる時間もない。注文は交流サイト「フェイスブック」のページなどから入ってくる。

 デュボー氏は、フレーバー付きカキには成長の余地が大いにあると確信している。トリュフを使った実験を行っているほか、今年は年間を通して注文可能なラインアップにコショウ風味を追加する計画だ。今春には季節限定フレーバーとしてグレープフルーツ風味、フランスで親しまれている果物「ミラベルプラム」風味の販売も予定している。

 もっとも、この若き養殖家は最終的に、世界最大の生ガキ消費地であるフランスで顧客を獲得する必要があるだろう。これは、種類ごとに分けた皿で順番にカキを提供するマイエール氏のような人々を納得させることを意味する。マイエール氏は「私のバーでは、酢は用意していない。レモンでさえカキにかけることは認めない」と話している。(ブルームバーグ Angeline Benoit)