【終活の経済学】お墓の引っ越し(1)増える「無縁」

墓石が撤去され、更地に戻った場所。寺院や霊園管理者には更地で返却する=「メモリアルアートの大野屋」提供
墓石が撤去され、更地に戻った場所。寺院や霊園管理者には更地で返却する=「メモリアルアートの大野屋」提供【拡大】

  • イオン葛西店で開かれた終活フェア。「墓じまい」の相談が多いという=2017年10月、東京都江戸川区

 ■5割「承継者いない」切実

 「終活フェア」などのイベントで、最も関心が高いのが、「お墓の引っ越し」(改葬)のコーナーだ。その背景を考える。「新しいお墓ってどんなお墓があるの?」「行政手続きって?」「引っ越しの作業は誰に頼んだらいいの?」と疑問は尽きない。

 ◆生前整理も検討

 2017年10月、東京都江戸川区の商業施設「イオン葛西店」で開かれた終活フェア。ショッピングセンターの中に設けられたイベント会場で、弁護士や税理士ら終活の専門家が「生前整理」や「葬儀」「相続」などのテーマで講演。2日間で約150人が参加した。

 とくに関心が高かったのが「墓じまい」だという。墓じまいといっても、お墓をなくしてしまうわけではない。現在のお墓を更地にして、遺骨や場合によっては墓石ごと別の墓所に移すことを意味する。いわば「お墓の引っ越し」(改葬)と意味は同じだ。

 個別相談では「なかなかお参りに行けない郷里のお墓に納められている遺骨を近くの霊園や納骨堂に移したいが、どうしたらいいか」といった趣旨の相談が相次いだという。また会場には僧侶への相談コーナーも設けられていたが、「改葬を希望しているが、いまの菩提(ぼだい)寺にどう言ってお願いしたらいいものか…」「菩提寺を離れるとき、離壇料が要ると聞いたのですが」といった質問がほとんどで、相談に応じた僧侶も「本来の仏教とはあまり関係のない質問でしたが、切実なんですね」と話していた。

 ソナエ「2017年秋号」のアンケートで、「お墓や供養のことで困っていることはありますか」と尋ねたところ、約半数が何らかの悩みを抱えており、そのうち「承継者がいない」「子供が承継できるか心配」が50%、「(遠いなどの理由で)墓参りに行けない」が18%、さらに「墓じまいを検討している」という人も13%いた。承継者や遠い郷里のお墓の問題を解決するには、やはり改葬などの手を打つことが必要だろう。

 ◆高齢化と過疎化

 厚生労働省「衛生行政報告例」によると、改葬の届け出件数は16年度だけでも10万件近く。2000年度には約6万6000件だったものが、緩やかに増える傾向がうかがえる。

 なぜ、いま墓じまいや改葬なのか。放っておけば「無縁」になりかねない墓が、それだけ増えていることが背景にある。

 こんなデータがある。熊本県人吉市は13年、市内にあるすべての民有墓地約700カ所と市有墓地(市が所有する土地にある墓地。市営墓地とは異なる)14カ所の実態を調べた。その結果、民有墓地の1万2342基の墓のうち約4割(4561基)、市有墓地にある墓2786基の約7割(1913基)が事実上、無縁化していることがわかった。

 人吉市は熊本県南部の内陸に位置し、温泉などの観光と農業、酒造が中心産業。人口は約3万3000人で、この10年で約5000人減った。高齢化と過疎化に悩む典型的な地方都市の一つだ。調べてみれば他の地域でも、人吉市の墓地と同じく、無縁墓が広がる光景がみられることは間違いない。

 ◆従来と異なる選択

 背景にあるのは、大都市への人口の流出と少子化だ。

 「先祖代々の墓」という言葉があるように、もともと墓は承継者がいることを前提にしてきた。しかしながら、故郷を離れて家を構えた人たちが、墓参りのためだけに郷里に帰るというのはなかなか難しい。

 少子化がその流れに拍車をかける。子供が成長し、長男、長女同士が結婚すると、自分の先祖の墓と配偶者の先祖の墓の両方をみなくてはならない。お互いの故郷が遠く離れていれば、墓参りはますます疎遠になる。すなわち、郷里の墓を墓じまいして、自分たちが暮らす都市部へ改葬することは、家墓を無縁墓にしないための現実的な選択となるわけだ。

 しかし、こうした時代の趨勢(すうせい)から、自分が入る墓すらも無縁化するだろうと考える人は意外に多い。第一生命経済研究所が09年に実施した調査では、自分の墓が「近いうちに無縁墓になる」と「いつかは無縁墓になる」と考える人が合計54.4%と過半数を占めた。子供がいる人でも52.7%が「いつかは無縁墓」と回答している。

 一方、無縁にならないと考えている人の14.2%は「養子をとってでも、子孫が代々継承し、管理する」ことを好ましいと考えており、こうした手段を講じてでも無縁にしない、と考えての回答ととらえることもできる。現実には、回答以上に多くの人が無縁墓になる不安を感じているといえるだろう。

 そうした不安が、改葬先として、承継者を必要としない永代供養墓や合祀(ごうし)墓、樹木葬、屋内型墓地、散骨といった、従来の「家墓」とは異なる墓を選ぶことにつながっているのかもしれない。(『終活読本ソナエ』2018年新春号から、隔週掲載)