【地球を掴め国土を守れ】技研製作所の51年(2)インプラント構造が水門守る

織笠川の水門工事現場。水門(左奥)を囲んでいるのがインプラント工法による「鋼矢板二重締切」。締切の右の川沿いの堤防は津波で破壊されている=岩手県山田町
織笠川の水門工事現場。水門(左奥)を囲んでいるのがインプラント工法による「鋼矢板二重締切」。締切の右の川沿いの堤防は津波で破壊されている=岩手県山田町【拡大】

 技研製作所が開発した無振動・無騒音の杭(くい)打ち機「サイレントパイラー」による工法が広く注目されるようになったきっかけは、平成23年3月11日の東日本大震災だ。

 「何千億円もかけた防波堤や堤防がいとも簡単に津波で吹き飛ばされる様子に身震いした。想像を絶する自然の力に慄然とした」と、技研製作所社長の北村精男(あきお)は振り返る。

 大震災が発生したとき、北村は神戸にいた。

 国土交通省の会議に出席し、サイレントパイラーによる圧入工法のひとつで、津波対策のための新型堤防・既存堤防の強化法「インプラント工法」について説明していたところだった。

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 この工法は、従来の、地面にコンクリートで固めた堤体をのせる「フーチング工法」と異なり、歯の治療技術である「インプラント」のように、地中深く差し込んだ杭を連続して並べて打ち込む。

 つまり、粘り強い杭の壁を造ることで津波への抵抗力を増すのだ。

 北村は、「大震災のかなり前から提案していた」というが、図らずも大震災の被害の様相が、インプラント工法理論の正しさを証明することになった。

 大震災の津波で大きな被害が出た岩手県山田町の織笠(おりかさ)川の河口付近では、建設中だった水門工事の敷地を取り巻いていた仮設の杭の壁が水門を守った。

 水門の周囲の既存堤防は津波で壊滅状態となっただけに、インプラント構造の強靱(きょうじん)さが浮き彫りになった。

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 大震災の津波による海岸堤防の被害を受け、国土交通省は、「防波堤の耐津波設計ガイドライン」(平成25年)をまとめた。

 ガイドラインでは、「(津波で破壊された)岩手県釜石市の湾口防波堤は津波高を4割低減させるなど、(既存工法による)堤防でも一定の被害軽減効果はあった」としながらも、大震災以降については、津波の外力によって変形しつつも倒壊しない「粘り強い構造による堤防」の実現を求めた。

 ガイドラインを検討した有識者や専門家による検討会の座長を務めた高知工科大学長の磯部雅彦(元土木学会長、東京大名誉教授)は「粘り強い構造の堤防とは、地震による液状化に耐え、津波が越流した場合も破壊されないことを指す。インプラント工法はまさにその機能を兼ね備えている」と評価している。

=敬称略

 首都直下、南海トラフの地震や多発する水害の危機が迫る中、独創的な工法が注目を集める「技研製作所」は創業50年を迎えた昨年、東証1部上場を果たした。この連載では、北村精男氏が一代で興した同社が、世界企業として発展してきた半世紀を追う。