【終活の経済学】お墓の引っ越し(3)都心で納骨堂建設ラッシュ

築地本願寺の合同墓(左側)とインフォメーションセンター=東京都中央区
築地本願寺の合同墓(左側)とインフォメーションセンター=東京都中央区【拡大】

  • 隈研吾氏が設計した一行院「千日谷淨苑」=東京都新宿区

 ■築地本願寺、「和の大家」が設計…

 「お墓の引っ越し」先は、どのような場所があるのだろうか。地価の高い都心では、納骨堂に人気が集まっている。

 郷里のお墓に納められた遺骨を住まいの近くに移したいという要望に応えて、主要駅からのアクセスがいい都心にも続々と納骨堂が誕生している。広い土地や個別の石を必要とせず、一般墓地より値段も低めになっている。

 厚生労働省の「衛生行政報告例」によると、都内の墓地の総数は近年、ほぼ横ばいだが、納骨堂は2014年387カ所、15年397カ所、16年405カ所と増加している。

 ◆創建400年で合同墓

 浄土真宗本願寺派の築地本願寺は17年、創建400年を記念して、東京都中央区の境内に計4万8000柱の遺骨を納めることができる合同墓(納骨堂)建設した。

 この合同墓は地下に設置され、地上部分は人が立ち入らないよう芝の丘で覆われている。礼拝堂には阿弥陀如来が祀られ、同寺の僧侶が日々読経をするという。

 納骨以前の宗教宗派は問わずに申し込めるのが特色(ただし読経や儀式は浄土真宗本願寺派の作法にのっとって行われる)で、申し込みは生前予約を原則としているが、すでに別の墓所に埋葬されている遺骨の改葬も可能。いったん納めた遺骨は改めて取り出すことはできないが、他の遺骨と混ざることはないという。

 申し込みは個人単位で、七回忌まで個別保管する場合は50万円から(以降は合同区画)、三十三回忌まで個別保管する場合は100万円からの永代使用冥加(みょうが)金が必要となる。当初から合同区画への納骨は30万円から(いずれも年間管理費などは不要)。

 問い合わせは築地本願寺コールセンター(フリーダイヤル0120・792・018)まで。

 ◆徳川家ゆかりの寺も

 徳川将軍家ゆかりの名刹(めいさつ)、顕本法華宗別格山天妙国寺(東京都品川区)に17年12月、合祀堂「報恩」が完成した。地上部分は合祀(ごうし)壇で、骨箱を納める130前後の壇(区画)を配置。地下は合祀墓で、4000~5000柱の収容が可能。天然の繊維で作られた袋に納めて埋葬し、時間の経過とともに土に還るようにする。

 境内にはすでに納骨堂「鳳凰堂」と合祀墓「法界萬霊供養塔」があるが、いずれも12年の完成以来5年でほぼ7、8割が埋まっているという。藤崎行学住職は「合祀墓などは本来の祀り方ではないが、いまは年間130万人の方が亡くなる時代。納まるべきお墓がない方も多く、時代が必要としている施設」として「報恩」を加えた。

 近年、急増している改葬に対応できるように、遺骨の乾燥施設を設置したことも特徴だ。古い骨壺を取り出すと、結露や雨水などで遺骨が湿っていることが少なくない。このため改葬の場合は、遺骨を洗浄し、1カ月ほどかけて自然乾燥させてから納骨、合祀を行う。新設した乾燥施設は約130柱を同時に乾燥できるという。

 地下の合祀墓は15万円、地上の合祀壇は35万円で、会費や管理費などは不要。希望すれば戒名も受けられる。過去の宗派は問わないが、合祀、納骨後は顕本法華宗にのっとった供養が行われる。寺には徳川家康が江戸入府の前日に泊まり、二代秀忠が2回、三代家光は44回も泊まった記録が残る。

 藤崎住職は「徳川家ゆかりのお寺で安心して眠ってもらいたい」と話している。問い合わせは天妙国寺(フリーダイヤル0120・961・258)まで。

 ◆ICカードで参拝

 明治神宮外苑に隣接する浄土宗一行院(東京都新宿区)は17年、開山400周年を記念して「千日谷淨苑」を開設した。設計したのは、東京五輪のメイン会場となる新国立競技場の設計などで知られる建築家、隈研吾氏。「和の大家」と称される隈氏らしく、アルミの丸瓦、杉板の壁と、日本の伝統文化と現代の融合を印象づけるデザインが特徴だ。

 地上1階、地下2階に全4200区画。1区画の厨子(ずし)には骨壺なら2柱、収蔵器なら4柱、粉骨すれば8柱まで納めることができる。自動搬送式で、参拝者は受付でタッチパネルにICカードをかざすと、納骨室に安置されている厨子が、参拝ブースに運ばれてくるシステム。希望により個人の遺影や戒名をディスプレーに映すことも可能だ。

 価格は1区画90万円で、別途、年間維持費1万8000円がかかる。子、孫へと名義変更して承継できる。宗教、宗派、国籍は問わない。問い合わせは、はせがわ信濃町営業所(フリーダイヤル0120・470・594)まで。

 ◆「シェアサービス」

 東京都台東区に17年誕生した「蔵前陵苑」も自動搬送式。7000基収容で、ハイグレードタイプが98万円、ベーシックタイプは85万円。地上6階建てで、それぞれ6階と3階に10カ所の参拝ブースを設けている。2階に本堂、ほかのフロアに葬儀や法要ができるホール、広い窓から東京スカイツリーを望むコミュニケーションスペースもある。

 運営するのは浄土真宗満照山眞敬寺。釋朋宣住職は「外墓の代わりの次善の策ではなく、ライフスタイルに沿ったお墓ととらえている。地域の人が参加できるような仏教的なエッセンスが詰まった取り組みをしていきたい」と話し、地域の終活拠点として展開をしていく方針だ。

 「お墓のシェアリングサービス」とうたうのは、東京都荒川区の町屋光明寺。最新の自動搬送システムを導入した「東京御廟本館」を17年10月に開いた。「東京御廟」に続く納骨堂で、町屋斎場に近いのも便利だ。1基39万円から。(『終活読本ソナエ』2018年新春号から、隔週掲載)