【Science View】乾燥に強くなる植物ペプチドを発見

≪図離れた組織間での情報伝達を担うCLE25ペプチド-BAM受容体≫CLE25ペプチド(赤)は乾燥ストレスに伴って、根から放出され葉に移動する。BAM1とBAM3受容体(青)は、葉でCLE25ペプチドを受容する。その後、シグナルが細胞内に伝わり、酵素NCED3遺伝子の発現、ABAの蓄積が起こり、最終的に気孔が閉じる。
≪図離れた組織間での情報伝達を担うCLE25ペプチド-BAM受容体≫CLE25ペプチド(赤)は乾燥ストレスに伴って、根から放出され葉に移動する。BAM1とBAM3受容体(青)は、葉でCLE25ペプチドを受容する。その後、シグナルが細胞内に伝わり、酵素NCED3遺伝子の発現、ABAの蓄積が起こり、最終的に気孔が閉じる。【拡大】

  • 高橋史憲さん
  • 出典:NatureCommunications doi:10.1038/s41467-018-03379-6の図を編集して作成
  • 佐藤陽祐さん

 □理化学研究所 環境資源科学研究センター 機能開発研究グループ 研究員・高橋史憲

 2050年には現在の1.6倍以上の食糧増産が必要だと予測されており、農作物の安定的な生産向上が急務である。植物は、植物ホルモンの一つであるアブシジン酸(ABA)を葉で合成する。ABAは葉の気孔を閉じさせ、植物体内から水分が奪われるのを防ぐ。また、ABAは乾燥を防ぐのに必要な遺伝子群の発現制御にも関わっている。しかし、植物が土壌水分の減少を根で感じたときに、どのような仕組みで、葉でのABA合成を促すのかについては長い間不明だった。

 今回、理研を中心とする共同研究グループは、植物に乾燥ストレスがかかったときに、根の細胞から12のアミノ酸からなる「CLE25ペプチド」が放出されることを発見した。解析の結果、(1)土壌の水分が減少するとCLE25ペプチドは、根から道管を通って葉に移動し、(2)葉では細胞膜上のBAM1とBAM3受容体がCLE25ペプチドを受容し、(3)それが引き金になって発せられたシグナルが維管束細胞内に伝わり、ABA合成酵素のNCED3が発現することでABAの蓄積が起こり、最終的に葉にある気孔が閉じることが分かった。つまり、神経を持たない植物が、移動性の植物ペプチドを使って、根と葉で情報をやりとりし、乾燥ストレス耐性を高めているのだ。

 本成果は、乾燥をはじめとする環境ストレスに強い作物の作出や、機能性肥料の開発など植物の生育環境への植物ペプチドの応用につながると期待できる。

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【プロフィル】高橋史憲

 たかはし・ふみのり 2007年筑波大学大学院生命環境科学研究科博士課程修了、博士(理学)。理化学研究所植物科学研究センター特別研究員、オーストラリアAdelaide大学客員研究員、理化学研究所バイオマス工学研究プログラム研究員を経て、18年から現職。

 ■コメント=植物の環境ストレス応答に関わる長距離シグナルネットワークを深く明らかにしたい。

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 □理化学研究所 計算科学研究センター 複合系気候科学研究チーム 客員研究員・佐藤陽祐

 ■大気中のチリが雲に与える影響を正確に再現

 大気中には、エアロゾルと呼ばれる半径1万分の1~100万分の1ミリの大きさのチリが存在している。これまで、エアロゾルの濃度が増加すると雲も増加すると考えられてきたが、近年、必ずしもそうではないことが分かってきたものの、その原因は不明であった。

 今回、理研を中心とする共同研究グループは、基本原理に忠実な全球大気モデルとエアロゾルモデルを結合させ、スーパーコンピューター「京」を最大限に利用し、14キロという高い水平解像度を保ったまま、通年という長期間のシミュレーションを実施した。従来モデルでは、エアロゾルが増加したときに全球のほとんどの場所で雲が増加しているのに対し、今回のシミュレーションでは実際の観測と同様に、地球上の大半の場所でエアロゾルの増加に伴い雲が減少し、エアロゾルが雲に与える影響をより正確に再現できた。また、従来の低解像度のシミュレーションでは、エアロゾルの増加によって雲の蒸発が促された結果、雲が減少する場合があるという効果が十分に再現できなかったため、エアロゾルが雲に与える影響を過大に評価していたことも明らかになった。

 本研究では、人工衛星による観測も重要な役割を果たした。今後、人工衛星とスーパーコンピューターの連携や、ポスト「京」のようなより高性能なスーパーコンピューターの性能を最大限利用することで、さらに不確実性を低減した気候変動予測ができるようになると期待できる。

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【プロフィル】佐藤陽祐

 さとう・ようすけ 2012年東京大学大学院理学系研究科博士後期課程修了、博士(理学)。理化学研究所特別研究員、同基礎科学特別研究員を経て、17年5月より名古屋大学工学研究科助教、また理化学研究所客員研究員。

 ■コメント=日本が持つ大型計算機の能力を駆使して、誰もできない気象・気候計算をしてみたい

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 ■将来の研究者来たれ! 理研が高校生向けサイエンス合宿

 理化学研究所の和光地区は、全国の高校生を対象に「RIKEN和光サイエンス合宿2018」を実施する。同合宿は、高校生が理研の最新の研究成果に触れ、研究者と一緒に実験&考察し、その結果をまとめた発表の体験をするなど最先端の研究・技術を体験できるプログラムになっている。

 ◇開催日 7月25日(水)~27日(金)

 ◇対象 高等学校、中等教育学校後期課程、高等専門学校(1~3学年)に在籍する生徒

 ◇住所 埼玉県和光市広沢2-1(http://www.riken.jp/access/wako-map/)

 ◇コース Aコース「宇宙空間に浮かぶ分子を地上で再現してみよう!」

      Bコース「光を電気に変えてみよう:軽くて柔らかい太陽電池をつくる!」

      Cコース「生命のセントラルドグマを試験管の中で再現してみよう!」

 ◇募集人数 各コース4人 計12人

 ◇参加費 実習費や宿泊費は理研が負担。食費と和光までの往復交通費は自己負担。

 ◇申し込み 必要事項を記入した参加申込書を5月31日(木)までに郵送で申し込む(締切日必着)。参加申込書をもとに選考した結果を応募者全員に通知する。

 ◇詳しいプログラムなどは以下のホームページ参照

 http://www.riken.jp/pr/events/events/20180725/

 ◇問い合わせ 理化学研究所広報室 (電)048・462・1331

 E-Mail:outreach-wako@riken.jp