【Science View】運動する細胞の進行方向を決める仕組みを解明

松岡里実氏
松岡里実氏【拡大】

  • 柳澤吉紀氏

 □理化学研究所 生命機能科学研究センター 細胞シグナル動態研究チーム 研究員・松岡里実

 ■運動する細胞の進行方向を決める仕組みを解明

 運動する細胞の細胞膜上では、進行方向に対して前側には脂質分子PIP3が、後側にはその分解酵素であるPTENが、空間的に分離して存在している。細胞が効率良く運動するには、細胞の前後領域が明確に区別される必要があるが、PIP3ドメインとPTENドメインの細胞膜上での分布がなぜ混じり合わないのかはよく分かっていなかった。

 今回、理研の研究チームは、生きている細胞の中の1個の分子を全反射蛍光顕微鏡と高感度CCDカメラで可視化する「1分子イメージング法」を用いて、細胞性粘菌(キイロタマホコリカビ)の細胞の前後を決める分子の動きを解析した。その結果、PIP3ドメインとPTENドメインが「互いに抑制し合う働き」によって、細胞膜上での分布が混じり合わず、前後の領域の境界が明確になることが分かった。この発見から、細胞の運動に方向性を与える酵素-基質システムの存在、つまり運動する細胞の前後方向が決まる仕組みの一端が明らかになった。

 本研究成果は、細胞極性(細胞の方向性)を決める基本原理を説明するとともに、細胞運動を操作する技術への応用や、がん細胞が浸潤、転移する仕組みの理解につながると期待できる。

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【プロフィル】松岡里実

 まつおか・さとみ 2005年大阪大学大学院理学研究科博士後期課程修了、博士(理学)。日本学術振興会特別研究員などを経て、11年4月から現職。18年10月から科学技術振興機構「情報計測」領域さきがけ研究員兼任。

 ■コメント=細胞が自発的に運動する仕組みを1分子の反応と拡散から定量的に解明したい。

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 □理化学研究所 放射光科学研究センター NMR研究開発部門 NMR開発グループ 超高磁場磁石開発チーム チームリーダー・柳澤吉紀

 ■電気抵抗ゼロの高温超電導接合を持つ永久電流NMR

 核磁気共鳴(NMR)装置は磁場中に置かれた原子核スピンの共鳴現象により、物質の分子構造や物性の解析を行うもので、生命科学、医薬、化学、食品、材料など幅広い分野で利用されている。NMR装置の超電導コイル(NMRコイル)は、線材同士を電気抵抗ゼロの超電導接合でつないで半永久的に流れ続ける電流により運転する(永久電流運転)。しかし、高温超電導線材の超電導接合はまだ原理検証レベルにあり、高精度の磁場を発生させるNMRコイルへの実装と永久電流運転に成功した研究機関はなかった。

 今回、理研を中心とする共同研究グループは、レアアース(希土類元素)系高温超電導線材の実用レベルの超電導接合技術(iGS(R)接合)を実装したNMRコイルを初めて開発し、9.39テスラ(400メガヘルツ)の磁場中での永久電流運転を実現した。1時間当たりの磁場の変化率は10億分の1レベルと極めて安定で、これはコイルを冷やし続ければ外部電源なしで10万年間も磁場が発生し続けることに対応する。さらに、この安定磁場の中でNMR信号の取得に成功した。

 本成果によって医薬品検査に用いられる定量NMRや、アルツハイマー病発症に関わるアミロイドβペプチドの構造が超微量試料で得られる次世代高磁場NMRの実現など、ヘリウムフリー化・小型化・高性能化を伴ったNMRの普及拡大が期待できる。

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【プロフィル】柳澤吉紀

 やなぎさわ・よしのり 2012年千葉大学大学院工学研究科博士後期課程修了、博士(工学)。日本学術振興会特別研究員、理化学研究所基礎科学特別研究員などを経て18年より現職。電気抵抗ゼロの超電導線を使った超強力な磁場のコイル開発に従事。

 ■コメント=強くて精密な磁場を作ることを極め、分析技術として役立てるところまでつなげたい。

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 ■企業向け理研イブニングセミナー開催

 理化学研究所は、研究成果と研究活動を産業界に伝え、連携に結び付けることを目的に、企業を対象としたイブニングセミナーを東京と神戸で月に一度開催している。

 新しい試みとなるシリーズのセミナーでは、社会課題に基づく具体的なテーマを設定し、そのテーマに沿った講演を企業のファシリテーターと協力して企画・開催。各シリーズは3回で構成され、各回、理研の研究者が異なる観点から講演する。

 セミナーは先着40人の事前申込制。開催スケジュールは、理研企業共創部ホームページ(http://c3d.riken.jp)参照

 【シリーズ企画】「人生100年時代の生き方/働き方をサイエンスする」

 ◇2019年2月20日(水)「脳の中の宇宙、内部モデルに基く意思決定、認知、共感」

 講師:岡本 仁(脳神経科学研究センター 意思決定回路動態研究チーム)

 理研東京連絡事務所(東京)

 ◇問い合わせ 理化学研究所 イノベーション事業本部 企業共創部

 E-mail:evening-seminar@riken.jp