論風

日本のCO2削減戦略 険しい「今世紀後半ゼロ」の道 (1/2ページ)

 4月上旬に、政府が懇談会を作って今世紀後半のできるだけ早い時期にパリ協定に対応して温室効果ガスの人為的排出と吸収を一致させる、つまりネット排出をゼロとする戦略案を提言としてまとめ発表した。27ページにわたる長文のもので多岐にわたっているが、一般的書き方で、温室効果ガス、より実際的には二酸化炭素(CO2)の各排出部門でどういう対応をし、どういう問題があるかはあまり明確に記していない。その辺をもう少し詰めた方がよいし、これは筆者の専門にも関わるので、筆者の意見を以下に記してみた。(地球環境産業技術研究機構理事長・茅陽一)

原子力比率には限界

 最初に断っておきたいが、本文最初に示したようにパリ協定ではネット排出を取り上げているが、少なくともわが国の場合はCO2の吸収を大規模に実現することはほとんどできない。従来吸収手段として世界でよく取り上げられるのは植林と「BECCS(ベックス)」と呼ばれる植生の刈取・燃焼とそれからの回収CO2の貯留、という手段だが、わが国の国土の狭さを考えるとそれの大規模な実行はほとんどあり得ないからである。そこで、以後考えるのは化石燃料より排出されるCO2の削減だが、これはエネルギー部門別に考える方が現実的である。日本の場合、2017年度のCO2排出の内訳は、大ざっぱには発電部門が50%、運輸と産業がそれぞれ20%、民生が10%であるので、これらの各部門の排出を数十年の範囲でゼロに抑えることが今回の対象になる。

 当然、最も排出の大きい発電がまず問題になるが、この場合参考になるのが国際エネルギー機関(IEA)の作った世界を対象とした「2060年CO2ゼロ排出」のシナリオである。そこで発電部門の構成の詳細をみると、原子力が15%で、残りの大部分の74%がすべて再エネとなっている。日本の場合、福島第一原発事故の余波を考えれば原子力比率はこれと同程度がせいぜいだろう。

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