朝ドラヒットで再び注目 「赤毛のアン」の魅力をさぐる

2014.5.11 18:06

 翻訳家、村岡花子の半生を描くNHK連続テレビ小説「花子とアン」の放送開始から1カ月。序盤の視聴率は好調で、関連本が相次いで出版されるなど、村岡が初邦訳したカナダの女性作家、L・M・モンゴメリの「赤毛のアン」の世界にも改めて注目が集まっている。時代を超えて愛されてきた「アン」の魅力はどこにあるのだろうか。(三品貴志)

 カナダで1908年誕生

 モンゴメリが1908年に発表した「赤毛のアン」は、カナダのプリンス・エドワード島を舞台に、孤児のアンが自然や周囲の人々との交流をへて成長していく物語。第2作「アンの青春」をはじめ一連の作品群は、「アン・シリーズ」と呼ばれて親しまれている。

 日本では戦前、「アン」を原作とした米映画が公開されたことはあったものの、村岡花子が昭和27年に単行本として刊行したことで、若い女性を中心に多くの読者を獲得した。

 英語圏の児童文学に詳しい日本女子大の川端有子教授(52)は「村岡訳が刊行されたのは戦後間もなくで、少女の活躍する物語が少なかった。好奇心旺盛で向学心に燃え、努力して周囲を変えていくアンの姿が、当時の読者に新鮮に映ったのだろう」と話す。

 川端教授も幼少期、昭和10年生まれの母が愛読していた村岡訳の文庫本を譲り受けたという。「子供時代はアンに注目していたが、大人になって読むと、アンを引き取り育てることで視野が広がっていく(老兄妹の)マシュウやマリラに共感を覚える。周囲の登場人物も個性豊か」と魅力を語る。

 良質な派生作品も

 また日本では、高畑勲監督と宮崎駿監督がテレビで最後にタッグを組んだアニメ版(昭和54年)や、劇団四季によるミュージカルなどが生まれた。特にアニメ版はアンが馬車で自然の中を駆け抜けるオープニングが有名で、「30~40代にはアニメで『アン』を知ったという人が多い。原作に忠実で、自然描写が素晴らしい」と川端教授。良質な派生作品によって物語が定着したことが、世代を超えて親しまれてきた理由になっているようだ。

 現実とのギャップ

 にぎやかなおしゃべりや自然描写、聖書や古典からの引用など、多面的な魅力に富む「アン」だが、川端教授は作中で描かれる「ロマン」と「現実」のギャップに注目する。

 マリラが用意した服が、はやりの袖のふくらんだものでなかったり、アンが小舟に乗って「エレーン姫ごっこ」に興じた直後、小舟が水漏れしたり…。作中では、アンのロマンチックな想像とは裏腹に、思い通りにいかない現実の厳しさも差し挟まれる。

 「ロマンと現実の間で葛藤するアンたちの姿に、モンゴメリ独特の絶妙なユーモアがにじんでいるからこそ、読者も親しみやすいのではないでしょうか」

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