【原発事故5年】重み増す東電の「十字架」膨らむ賠償費用、増え続ける汚染水

2016.3.11 23:08

 福島第1原発事故を起こし、一時的に国の公的管理下に置かれた東京電力。被災者への賠償や除染費用などの支払いは10兆円規模に上る。最長40年かかる廃炉作業では、溶け落ちた燃料(デブリ)の場所も分からないまま、汚染水が増え続けている。どのように事故の責任を果たしていくのか。背負っている「十字架」は重みを増している。

 「ここが、東京電力が東京電力であることの原点。事実に向き合い、福島への責任をしっかりと果たしていく」

 11日午後2時46分。東電の広瀬直己社長は福島第1原発の緊急時対策本部で1分間の黙祷(もくとう)をささげた後、社員にこう訓示した。

 東電が被災者へ支払った賠償金は4日時点で、約5.9兆円。総額は7兆円以上になる見通しだ。このほかに除染費用2.5兆円、中間貯蔵施設の建設費用1.1兆円を「事故原因者としての責任」として事業計画に盛り込む。

 費用捻出のため、大規模な人員削減を実施した。平成26年度には1千人規模の希望退職を募り、10年かかる予定の削減目標を7年前倒しで達成。社員を交代で被災地の復興支援ボランティアに派遣する取り組みも続いており、これまでに延べ約23万人が汗を流した。

 先月には、福島の事故の炉心溶融(メルトダウン)をめぐる「マニュアルの隠蔽(いんぺい)」とも取られかねない事態が起き、自治体や住民との信頼関係を大きく後退させた。

 デブリの取り出しを含む本格的な廃炉作業はこれからで、廃炉への明確な道筋も見えない。汚染水は増え続け、約1千基のタンクが敷地を埋め尽くしている。

 東電は近く、汚染水の発生そのものを抑制する「凍土遮水壁(とうどしゃすいへき)」を稼働させる計画だが、その効果は未知数だ。(天野健作、緒方優子)

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