【生かせ!知財ビジネス】期限近づく特許庁の金融機関支援事業

2017.5.26 05:00

 特許庁は6月19日から「知財ビジネス評価書作成支援制度」、いわゆる“知財金融促進事業”の金融機関向け公募を開始する。安倍晋三政権が進める産業競争力強化策の一環として、2015年度から18年度までの4年間実施する期間限定事業だ。期限が近づく中、その在り方について各方面からさまざまな声があがり始めた。

 知財ビジネス評価書とは、企業の保有する特許・技術が事業にどう関係し、貢献しているかについて、知財の専門家が特許調査や経営者・技術者などへの取材を通じてまとめ、金融機関へ提供するリポートである。特許庁が作成費用を1件当たり約30万円負担する。

 金融機関が担保融資を脱却し、事業評価による融資への転換とその拡大を目指す中で、特許庁で中小企業支援を担当する普及支援課が金融庁に提案した省庁連携施策が知財金融促進事業だった。元気な中小企業が増えれば、特許出願の増加にもつながるというわけだ。

 「リポート作成手法など、庫内教育の観点からも面白い事業だと思った。募集枠も拡大すべきだ」とは関西地区の信用金庫経営者だ。バブル崩壊後、金融機関は融資担当者教育をおろそかにしてきたため、情報収集や事業評価能力が大幅に低下しているという。特許庁は合わせて金融機関内の職員研修などの支援も用意している。

 一方、都内の銀行系調査機関関係者は「今後金融機関が独自に導入するのは難しい。非常に高リスク(高金利)な企業でない限り、融資で得られる金利に対して、この作成費用は見合わない」と指摘する。例えば30万円の作成費用は融資額3000万円の1%分にも相当する。

 作成者側は正反対の意見だ。ある受託者は「特許庁の仕様で30万円は安過ぎる」と言い切る。ただ「金融機関との関係を構築し、優良な中小企業顧客の開拓につなげられれば」との本音も漏れる。実際、知財に目覚めた中小企業から直接依頼も増えたという。

 「事業終了後は民間で引き継いでもらえたら」と特許庁幹部は期待する。期間限定は財務省との間で予算折衝時点から決められていた。普及支援課の小林英司企画調査官は「何度も応募される金融機関もあり、試行期間は終わったと感じる。金融機関と中小企業が自立的に知財に取り組めるようになるには何ができるのか、検討していきたい」と話した。(知財情報&戦略システム 中岡浩)

閉じる