【視点】アメリカザリガニの華麗なる一族 「タイゴースト」めぐり賛否両論

2018.2.6 06:12

 □産経新聞論説委員・長辻象平

 アメリカザリガニがホットな話題になっている。その一つは駆除活動だ。

 池や沼をはじめとする淡水の生態系の破壊者としてクローズアップされている。

 影響がすごいのだ。アメリカザリガニがため池などに侵入すると池の環境が一変する「レジームシフト」を引き起こす。水草は食べられて消滅し、底の泥土が攪拌(かくばん)されることで澄んだ水も茶色に変わる。

 太陽光は水中に届きにくくなり、水草もないので光合成が進まない。結果として溶存酸素の不足が起きて劣悪な環境へと転がり落ちるのだ。

 アメリカザリガニの食性は幅広い。子供のころは動物食を好み、大きくなると植物食に傾いていく。彼らが増えた池では、トンボのヤゴやゲンゴロウなどの水生昆虫類が全滅した例もある。

 彼らは二枚貝も捕食するので、貝に産卵して繁殖するタナゴ類も痛手を受ける。生態系がこうむる、こうした一連の「アメザリハザード」は深刻だ。

 魚類の侵略的外来種では、オオクチバス(通称・ブラックバス)が有名だが、アメリカザリガニは、この魚との関係においても、やっかいな存在なのだ。池や沼でオオクチバスを駆除すると、代わりにアメリカザリガニが大繁殖するという困った事例が相次いでいる。

 食物連鎖の上位に君臨するオオクチバスがいなくなる結果、それまで捕食圧がかかって、むやみに増えられなかったアメリカザリガニに、わが世の春が訪れるのだ。

 この現象は「中位捕食者の解放」と呼ばれ、オオクチバスの駆除後も、さらなる対策に迫られる。市民によるアメリカザリガニ防除の取り組みは、各地で展開されていて注目を集める機会が増えている。

 アメリカザリガニに関する話題のもう一つは華麗な「タイゴースト」の登場だ。

 正体はアメリカザリガニなのだが、ヒゲが白く体には赤や青が混じって美しい。ニシキゴイの発色が転写されたような趣だ。

 ゴーストとは、体が部分的に白化して多彩な色が表れた色彩変異個体の名称だ。国内では以前から存在していたが、人気は今一つだった。

 それが2016年10月に、世界中のザリガニファンが注目するほどゴージャスなゴーストが、タイの観賞魚養殖家によってネット上で発表されたのだ。

 半年後には日本への輸入が始まり、今ではネット上やペットショップで販売されている。インターネットでタイゴーストの画像を検索してごらんになるとよい。彼らのカラフルさに圧倒されることだろう。

 アメリカザリガニは、子供たちの間で人気ある生きものだ。タイゴーストは大人も魅了する力を持っている。新たな水族ペットの一角を占めることだろう。

 発表当初、タイでは1匹で200万円相当の高値を呼んだ。半年後に日本にやってきたときは7万円。今では数千円でも購入できるが、タイでは新たな外貨獲得のビジネスだ。専門誌も創刊されたほどの力の入れられようである。

 外来生物のアメリカザリガニは名前の通り、アメリカからやってきた。

 1927年5月、横浜港に到着した汽船にはニューオーリンズ産のアメリカザリガニが27匹積まれていた。約100匹中の生き残りだ。同時購入した食用ガエルの餌となるはずだったが、到着したカエルは全滅状態。アメリカザリガニだけが鎌倉の養殖池に移され、放置された。

 この27匹が約90年後の現在、北海道から南西諸島にまで分布拡大を遂げたアメリカザリガニの草分けとされている。すさまじい繁殖力だ。

 生態系を守るためにアメリカザリガニを「特定外来生物」に指定して、販売などを禁止すべしとの声もある。しかし、ここまで増えてしまったものを、厳しい罰則を伴う法規制の対象種にすると効果より混乱の方が大きくなるという意見もある。

 タイゴーストについても賛否両論だ。だが、その魅力によって人気はさらに高まっていくだろう。華麗な色模様でも、アメリカザリガニであることに変わりはないことを忘れないでおくことが必要だ。

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