シングルマザーが年収1500万円世帯に負ける場合も… 待機児童が減らぬ理由

提供:PRESIDENT Online
保育所定員と待機児童数の推移

 シングルマザーが共働きに「負ける」

 「保育園落ちた日本死ね!!!」と題した匿名のブログ記事が話題を集めている。国会でも取り上げられ、安倍晋三首相は「(保育士の)待遇の問題があると認識している。今春にも具体的で実効性ある待遇改善策を示す」と答弁した。厚生労働省によると昨年4月1日現在で、保育所などを利用する児童数は233万人。一方、認可保育所に入れない待機児童は2万3167人にのぼる。待機児童が減らない理由は、保育士の給与が低く、担い手不足だからともいわれる。本当だろうか。

 保育所には大別すると、「認可保育所」と「認可外保育所」がある。認可保育所は自治体直営の公立保育所、社会福祉法人、株式会社が運営主体になっている。設備や保育士の配置基準が保障されていて、保育環境は手厚い。利用者負担の保育料は、所得状況や子どもの年齢に応じて決まる。目安は月額1万~3万円だ。

 認可外保育所は認可以外の保育所がすべて含まれる。保育環境は様々だが、その中には自治体の基準を満たして補助金を得ている保育所がある。東京都の「認証保育所」、横浜市の「横浜保育室」、川崎市の「川崎認定保育園」などがそれに当たり、認可保育所に入れなくても補助金付き保育所に入れれば待機児童にはカウントされない。

 保育料は所得に関係なく利用日数に応じた金額を払う。利用者負担の目安は月20日程度の利用で月額7万~10万円である。

 最近では認可と認可外の保育料の差額を補助する自治体が増えており、認可外でも負担額が変わらないこともある。それでも保育環境の手厚さを理由に、認可への預け入れを希望する保護者は多い。

 本来、自治体は必要とする住民全員に「認可保育所への預け入れ」を提供する義務がある。しかし都市部の自治体では恒常的に希望が定員を上回っているため、「利用調整」が行われている。

 利用調整はくじ引きなどの抽選で決まるわけではない。保護者が保育を必要とする状況に応じて調整が行われる。これは「点数方式」と呼ばれていて、祖父母との同居や保護者の就業状況などで得点が変わる(※1)。

 ※1:利用調整は非正規雇用や自営業の方々に対して厳しい面もあるが、政治家が口利きしたり、顔なじみになった自治体職員が便宜を図ったりする事態よりも健全である。

 点数の条件は自治体ごとに少しずつ異なるため、結果的に、よく研究して加算を集められた人は「受かる」が、仕組みを知らずに入所申請書を作成した人は「落ちる」ことになる。加算の条件を整えることは、ネットなどで「保活(ほかつ)」と呼ばれている。

 たとえばフルタイム共働き世帯でも「落ちる」ことがある。なぜなら同じ条件の共働き世帯でも、第1子が既に認可保育所に在籍している場合の「きょうだい加算」、復職を早めて認可外保育所を利用している「実績加算」などを利用している場合、点数で負けてしまうからだ。

 ある自治体の条件では、無職で求職中のシングルマザーであっても、世帯年収1500万円のフルタイム共働き世帯に負け、認可を利用することができない。

 保活では「高年収は不利」と言われるが、年収は点数が同順位で並んだときに初めて考慮されることが多く、それほど不利にはならない。

 なぜこのような不条理が起こるのか。それは保育が、子どもを中心とした福祉の制度から、就労継続支援の市民サービスへと性質を変化させつつあるからだ。

 急激に保育所定員が増え続けているにもかかわらず、待機児童問題が一向に解消しないのは、潜在的な保育所需要が大きいからだ。定員が増えれば増えるだけ、入所申請は集まる。認可保育所が市民サービスとして期待されているからである。

 待機児童としてカウントされるためには、認可保育所を保留になり、補助金付き保育所にも受け入れてもらえず、育児休業も延長しないことが条件となる。保育所が決まらなかったので育児休業を延長した人、保留になったが自治体が調整した保育所を選ばなかった人は待機児童にはカウントされない。

 「受益者負担」なら選択肢は増やせる

 保育対策予算は国と自治体のそれぞれで分けて考える必要がある。国の予算は主に民間認可保育所の新設に対して補助金をつけている。保育所を増やせと国に訴えても、認可する自治体が動かなければ補助金が生かされない。

 認可保育所には利用する子どもの人数や年齢に応じて自治体が運営費を支給する。この運営費は国が基準を定めた「公定価格」になっている。保育士不足の原因について「保育士の給与が安いからだ」との指摘がある。

 保育士の給与が安い理由は、公定価格によってコストが決められているからだ。つまり保育所が経営の工夫として給与を大きく引き上げることは事実上できない。

 「公定価格」の運営費だけでは保育所は経営できない。特に都市部の自治体では、物件費や人件費の負担を考慮した額を上乗せしている。その額は3歳未満児で公定価格の概ね倍額。「激戦区」となっている中野区などは、区負担が国負担を上回っている。国は公定価格を基準に保育士の処遇改善をしているが、自治体の負担分は対象になっていないため、特に都市部では引き上げの効果は薄れてしまう。

 振り返ってみると2001年に初めて株式会社が保育所の運営に携わって以来、保育士の人件費を抑えることで定員当たりの運営費を圧縮する施策が進められてきた。その背景には、当時、「保育士の給与が高かった」ことがある。

 公立保育所で働く公務員保育士の給与体系は年功序列であり、勤続年数が長くなるほど給与は高くなる。どれだけ違うかといえば、民営化で公立保育所1カ所分の予算で民間保育所2カ所が増やせるようになった。それだけ給与は下がったわけだ。

 これまで保育所の定員を増やすことができたのは、言い換えれば、保育士が待遇の悪さに甘んじてくれたからだ。「保育士不足」が問題になっている通り、給与の引き下げは限界に達している。保育士の待遇改善のためには、「公定価格の引き上げ」だけでは不十分だ。自治体の負担を考慮した制度設計が必要だろう。

 そのとき財源はどこから確保すべきか(※2)。

 市民サービスとしての保育には、フルタイム共働きの「高所得世帯」への公費補助という側面がある。しかも自治体の多くが国基準の保育料をさらに割り引いて補助率を上げているのが実態だ。サービスを受けられる市民は就労継続と所得を維持できる機会に恵まれるわけだから、受益者に負担を求めるべきだろう。

 筆者は、保育料の負担について所得階層に応じた現在の体系を維持しつつ、上限を引き上げる「ワイド化」が望ましいと考える。その場合でも「多子減免」を適用して、第2子半額、第3子無料とすれば、利用者にとっても納得感があるはずだ。

 ※2:保育士の待遇改善にどれくらいの予算が必要になるか議論がある。数千億円から2兆円まで幅があり、数%の改善から潜在保育需要を掘り起こした先まで見通すかで差異がある。

 また保育所と幼稚園の「幼保一元化」という問題もある。背景には、認定こども園に一本化できなかったため、それぞれの思惑で整備が進んでいることがある。本来、保育所と幼稚園は連帯できるはずである。

 受け入れ余地のある幼稚園が長時間の預かり保育を実施したり、将来的な園児減少を見越して0~2歳を受け入れる認定こども園に転換したりする方向に舵を切れば、たとえ保育料が高額になったとしても、それを喜んで負担する世帯があるはずだ。

 パートタイム、そして専業主婦(夫)の潜在的な保育需要が段階的に掘り起こされていくので、待機児童解消は当分難しい見込みである。いたずらに政治問題にせず、粛々と保育所を増やす以外にない。

 (嘉悦大学 経営経済学部 准教授 和泉徹彦=答える人)