「悪性腫瘍って何ですか?」 がん宣告に涙…子供へどう伝える?仕事どうする?

 
バーベキューの帰り道に記念撮影する西口洋平さん(右)と長女の倖さん=平成27年夏、東京都江東区(西口さん提供)

 ある日突然がんと宣告されたら、子供へどう伝えるか。仕事はどうするのか-。東京都内の会社員、西口洋平さん(36)は35歳で胆管がんと診断された。「同じように悩んでいる人たちをつなぎたい」。そう考え、子供を持つがん患者のSNS(会員制交流サイト)「キャンサーペアレンツ」を立ち上げた。西口さんらは思いを伝え合いながら、人生の在り方を問い続けている。

 切除できず

 「悪性腫瘍って何ですか?」。思わず聞き返した。医師から告げられた、なじみのない病名。「平たく言うと、がんです」。人材サービス会社の営業マンとして精力的に働いていた平成27年2月。約2カ月後には長女、倖(こう)さん(7)の小学校の入学式を控えていた。

 初めに異変を感じたのは26年の夏ごろだった。原因不明の下痢が続き、27年初頭に精密検査を受けたところ、胆管に異常があると現れる黄疸(おうだん)の症状に医師が気づいた。検査入院の結果、がんが分かった。

 最初に、母の君代さん(66)に電話で伝えた。「いろいろ検査して、結果がんって言われた」。涙があふれ、それ以上しゃべれなかった。君代さんも泣いているのが分かった。

 電話を切り、「人前で泣くわけにはいかない」とトイレにこもった。どれくらいの時間がたったのだろうか。気持ちを落ち着け、妻の明子さん(38)にも電話をかけた。感情が高ぶっていたのか、何を話し、何を言われたのかの記憶がない。でも、明子さんは取り乱すことなく西口さんの言葉を聞いてくれていたことだけは覚えている。

 すぐにがんの切除手術を受けたが、リンパ節や腹膜にも転移していることが分かった。最も進行度合いの高い「ステージ4」。もはや切除は不可能だった。

 会員200人超

 「仕事やお金のこと、どうしよう。子供には手紙を書いておこうか」

 入院中は、さまざまな心配事が頭に浮かんだ。「他の人はどうしているのだろう」と気になったが、病院や知り合いには同世代の患者はいなかった。

 「皆も同じように悩んでいるはず。同世代のがん患者同士がつながれる状態をつくりたい」。そう思い、今年4月に立ち上げたのがキャンサーペアレンツだ。元同僚や友人など考えに賛同してくれた仲間の協力を得て運営している。

 会員の条件は、子供がいるがん患者であること。会員登録すると、日記を公開したり、会員同士で個別にメッセージのやり取りをしたりすることができる。会員数は200人を超えた。闘病生活に伴う悩みや日々の生活で見つけた喜び、悲しみなどがつづられ、それに対するコメントが書き込まれる。会では会員数を増やし、その声を国や自治体などしかるべき機関に届けたいと考えている。

 どう伝える

 西口さんは現在、週1日のペースで通院し抗がん剤治療を受けている。仕事は会社と相談して週2、3日の勤務に減らし、残りをキャンサーペアレンツの活動や家族との時間に充てる。医師からは「他の臓器に転移していくと急に体力が落ちて亡くなる。5年とか10年、元気でいることは奇跡に近い」と言われている。

 明子さんは西口さんの体を気遣い、野菜中心の食事を作るように心掛けてくれる。病気のことも、キャンサーペアレンツの取り組みにも、あれこれ口出しはせず、西口さんの考えを尊重し、支えてくれている。

 仕事から早く帰宅できた日や休日は、倖さんとショッピングセンターや公園へ出かける。自宅では西口さんと倖さんがふざけ合い、その様子を明子さんが見守る。「何をするかというよりも、一緒に過ごす時間が大事」。そう考えている。

 倖さんにはまだ、がんのことを伝えられずにいる。「お父さんがいなくなったらどうする?」。2人で風呂に入ったとき、何げなく問いかけたことがある。すると倖さんは「地図を描いておくよ。駅から家までの地図」と無邪気に答えた。

 キャンサーペアレンツでも子供との接し方についての発信が多い。倖さんへの伝え方は、まだ模索中だ。

◇  

 厚生労働省が平成26年にまとめた推計によると、22年時点で働きながらがん治療をしていた人は約32万5千人。生存率の向上で社会で活躍するがん患者が増える中、内閣府が26年に行った「がん対策に関する世論調査」では、がんで通院しながら働き続けられる環境だと思うかという設問に対し、「そう思わない」「どちらかといえばそう思わない」との回答が65・7%に上っている。

 こうした状況を受け、厚労省は今年2月、両立を支援する企業向けガイドライン(指針)を公表した。指針では、仕事を優先して適切な治療を受けられなかったり、職場の理解や支援体制が不十分なことにより退職するケースがあると指摘。患者の情報を企業と主治医が共有した上で、勤務を継続できるかを判断し、働き続ける場合は休暇や勤務時間などに配慮するよう求めている。(小林佳恵)