円城塔(作家) もっと気楽に生きたい

新・仕事の周辺
円城塔

 文字を書いて暮らしている。

 これはもう、書いた文字数がそのまま生活に直結していると考えてもよい。1日に1万円が必要だとする。1日に1千文字書けるとするなら、1文字10円という計算になる。

 書家ではないから、原稿はワードプロセッサーで書いて電子メールで送る。当たり前だが、誰が打っても同じ形の文字がでてくる。猫がキーボードの上を歩くということでもよい。

 そういう、いまひとつ実体に欠けるものがお金に換わる理屈は、いくら考えてもよくわからない。狐(きつね)につままれるというものかもしれず、原稿料はある日、木の葉になっているかもしれない。

 いっそ、「あ」という文字だけを書き連ねてお金がもらえないかと思うが、こちらはこちらで不思議なことに駄目らしい。

 しかたがないので多少は工夫をすることになり、そうすると1日に書くことができる文字数に限りがでてくる。増収を目指すならば単価を上げるしかない。数十円というのはありうるが、100円にまでもっていくのは難しそうだ。1文字100円ともなると、こちらも、うかうかと書いてはいけないような気持ちになって、スランプということにもなりかねない。

 文字を並べていようとするときに、気分のもっていきかたは意外に重要である。

 朝一番に仕事ができる日は調子がよい。できれば6時あたりからとりくみたいが、近所の喫茶店はまだ閉まっている。

 そう、喫茶店でなければ仕事ができない。家にいると、寝るか家事をしてしまう。睡眠も家事もやめどころがないので困る。

 喫茶店で腕を組みつつ、2時間ほどノートパソコンの画面を眺める。書けても書けなくてもそれ以上は集中力が切れる。

 メモを見ながら、夕食の買い出しをする。一旦家に帰り少し休む。まだ元気があれば再びどこかの喫茶店へいき、また2時間ほど仕事をする。書店へいくか家に帰るかする。

 元気があれば、もう2時間働く。元気はないことが多い。調べ物がある場合はここでする。寝転んで本を読んだりしていると、これは仕事なのか娯楽なのかとつい考える。もっと気楽に生きられないものか。16時頃から夕食の準備をはじめる。

 ただ淡々と暮らしていたいが、なかなかそうもいかないものだ。風邪などをひくともういけない。体調はてきめんに文章にでる。同じことを何度も書いたり、それを修正したのだったかまだだったのかがわからなくなる。

 この頃ようやく、土曜日は全休にすることにした。日曜日はまだ休みにできない。正月も結局仕事をしていた。

 筆ははやい方なのだが、体調を崩すことも多くて、ならしてしまえば平均である。

 布団の中で明日の献立を考え、携帯電話にメモしながら寝る。

                   ◇

【プロフィル】円城塔

 えんじょう・とう 昭和47年、北海道生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。平成19年「オブ・ザ・ベースボール」で文学界新人賞、22年『烏有此譚(うゆうしたん)』で野間文芸新人賞、23年、早稲田大学坪内逍遙大賞奨励賞、24年『道化師の蝶』で芥川賞、『屍者の帝国』(伊藤計劃との共著)で日本SF大賞特別賞、今年6月「文字渦」(「新潮」28年5月号)で第43回川端康成文学賞を受賞した。26年には『Self-Reference ENGINE』の英訳版がフィリップ・K・ディック賞特別賞を受賞。

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