何歳まで働けるのか 人生二毛作、「楽しさ」追求に意義

高論卓説

 私たちは何歳まで働けるのか。損か得かではなく、どちらが楽しいかだ。われわれは何歳まで働かなくてはいけないのかという話ではない。高齢になっても働かなくては食っていけないのかという話でもない。年金受給75歳時代に備えようという話でもない。充実した人生の後半戦を送るには、できるだけ働いていた方が良いのではというだけの話だ。なぜかといえば、働いている方が楽しいから。

 働くということは賃金を得ることだし税金も払う。つまり、何歳になっても世の中に少しだけ貢献することは楽しくないですかという考え方だ。もうずいぶん税金も納めたし定年後は年金でのんびり暮らしたい、と思うのならそれも決して悪いことではないし、誰にも文句を言われる筋合いもない。

 今話題の単行本「九十歳まで働く」(郡山史郎著・ワック出版刊)の中で著者の郡山さんは、高齢者が働くということは税金をもらう側に回るか、納める側に回るかの問題ではなく、どちらが楽しいかという選択肢に基づいて決めるべきだと述べている。

 郡山さんはソニーで役員を勤めた後、72歳で人材系ベンチャーのCEAFOMを立ち上げた。再就職先が見つからなかったので自分で会社をつくったのだそうだ。社員は全員プロの人事コンサルタントで平均年齢は61歳。女性の方が多い。同社には「焦らない、恐れない、諦めない、笑顔でやること」という社是があり、社内はまるで平均年齢30歳の渋谷のベンチャーのように常に笑い声であふれている。

 現在82歳で現役バリバリの郡山さんは人生二毛作時代の今、これまでのキャリアとは全く違った職種にチャレンジして人生を二度楽しんではと提案する。

 だが、現実は高齢求職者、それも特に男性は社長をやりたい人ばかりで肩書にこだわり過ぎるという。学歴も前職の肩書も忘れ、人生の後半戦を新しい自分として楽しむことが成功の秘訣(ひけつ)であるのにかかわらずだ。

 筆者の米国に住む友人は大手航空会社をリタイアして、今は週3日、近所のゴルフ場でパート勤めをしている。小遣い稼ぎも目的だが仕事の後、無料でハーフを回れるのが最大のベネフィットと言って笑う。

 日本の友人は霞が関の役人だったが、今はパートで老人ホームの送迎バスの運転手をしている。海外生活も長かったので週に一度、ホームのお年寄りに英会話も教えている。80歳のご婦人が英検3級に受かったと喜んでいた。

 日本は長寿国といわれているが男女とも平均寿命と健康寿命の間には9歳の差がある。つまり、死ぬ前の9年間を日本人は日常生活に何らかの制限があり、ゆえに医療機関の世話になっているという事実がある。これが国の老人医療費を破綻に追い込む主たる原因である。末期の寝たきり老人に高額な延命治療を施して平均寿命を伸ばすより、健康寿命を延ばして平均寿命との差を縮める戦略に投資する方が賢明である。

 結果として、国の老人医療費の負担を軽減することが可能だ。健康で長生きはわれわれ自身のためである。そのためにはできるだけ長く、楽しく働き、常に頭と体を忙しくしておく。税金をもらって暮らすか。それとも納めるのか。どちらが損か得かではなく、重要なのはどちらが愉快で楽しいかだ。

【プロフィル】平松庚三

 ひらまつ・こうぞう 実業家。アメリカン大学卒。ソニーを経て、アメリカン・エキスプレス副社長、AOLジャパン社長、弥生社長、ライブドア社長などを歴任。2008年から小僧com社長(現職)。他にも各種企業の社外取締役など。71歳。北海道出身。