「風邪には抗生物質を使わないことを推奨します」 耐性菌抑制へ 厚生労働省が手引作成

 

 風邪には抗菌薬(抗生物質)を使わないことを推奨します-。こんな内容を含んだ医師向けの手引を、厚生労働省が作成した。風邪のほとんどはウイルスが原因で、細菌の増殖を止めたり殺したりする抗菌薬では治せない。だが実際には外来診療の現場で広く投与され、薬が効きにくい薬剤耐性菌を増やす一因になると懸念されているためだ。患者も参考にしたいポイントと、耐性菌の低減を目指す医師らの取り組みを紹介する。

 ◆4割が不正解

 感染症の専門医として手引作成に参加した国立国際医療研究センター(東京)の具芳明特任研究員によると、持病がない大人や小学生以上の子供の典型的な風邪の経過は、微熱やだるさ、喉の痛みといった症状に続いて、鼻水やせきが出て、1週間ほどで自然に治る。

 水分と栄養を取り、ゆっくり休むのが一番良いとされるが、風邪の症状で医療機関から抗菌薬が処方されるケースは珍しくなく、患者の6割に上るとの研究もある。「万一細菌が原因だったら重症化の恐れがある、という医師の心配も一因といわれる」(具さん)という。

 一般の人たちの認識も影響しているようだ。厚労省研究班が今年3月に実施したインターネット調査では、回答者約3400人の4割以上が「抗菌薬はウイルスをやっつける」「風邪やインフルエンザに抗菌薬は効果的だ」などの誤った記述を「正しい」と答えていた。

 手引は、せき、鼻水や鼻づまり、喉の痛みという症状がほぼ同時に出て、どれかの症状が突出して強くない場合は、発熱の有無にかかわらず基本的に風邪と考えられ、抗菌薬は不要とした。

 「ただし、普段の風邪と明らかに違うとか、症状がぶり返したなどの場合は、医師の判断が必要なので受診してほしい」と具さんは念を押す。

 ◆薬の根拠に納得

 浜松市の内科医院の本康宗信医師は5年ほど前から、重症化を心配して訪れる患者を中心に「悪い菌がいるといけないから念のため調べましょう」と、たんなどの検体を薬品で染め、細菌の有無を調べる「グラム染色検査」を院内で積極的に行っている。

 検査の所要時間は5分ほど。細菌が検出されなければ痛みを和らげる鎮痛薬などを出す。結果として抗菌薬の処方は非常に少なくなった。「最初は手間がかかって難しいかと思ったが、根拠に基づいて薬を選ぶことができ、患者さんも納得がいくようだ」と本康さん。細菌が確認され抗菌薬を出す場合も、幅広い種類の細菌に有効な薬を漫然と使わないようにしているという。そうした抗菌薬に中途半端にさらされることで、耐性菌が増えると報告されているためだ。本康さんは「耐性菌の削減に少しでも貢献できれば」と話す。

 ◆地域で協力、監視

 感染症の流行は地域によって差があるといわれる。本康さんの医院のような小規模な施設では、患者数が多く、検査室を備えている病院と違い、原因となる細菌などの動向に関する情報が得にくい。そこで、地域の医療機関が協力して耐性菌を監視し、減らそうという試みが各地で動き始めている。

 本康さんがいる静岡県でも今年3月「静岡薬剤耐性菌制御チーム」が発足した。本格的な活動はこれからだが、チーム代表の倉井華子・県立静岡がんセンター感染症内科部長は「薬剤耐性が問題になりやすい細菌について、耐性率の状況や有効な抗菌薬、効きにくい薬などについての情報を共有する体制を来年には整えたい」と話す。厚労省の手引の内容を分かりやすく発信し、市民にも知識を広めたいという。