増える「スメハラ」対策に悩む経営者 “加害者”に自覚なし 対応次第で人権侵害のおそれ

 
マンダムが、企業向けに臭いのエチケットなどを指導するセミナー(同社提供)

 セクシャルハラスメント、パワーハラスメントに続いて、臭いで周囲に不快な思いをさせる「スメルハラスメント」(スメハラ)の対策に乗り出す企業が増えてきた。人事評価に「臭い」の項目を設ける取り組みも登場。ただ、体質にも関係する臭いを「不快だ」と指摘することは人権侵害につながる恐れもあり、対応に悩む経営者は多い。(板東和正)

 悲痛な声

 「誰にも分かってもらえず、苦しい…」

 今年3月、ハラスメント防止の研修などを行う一般社団法人「職場のハラスメント研究所」(東京)に、ある企業の事務職の女性社員から、スメハラの相談が寄せられた。

 横の席にいる男性上司の体臭やたばこの臭いが鼻につき、仕事に支障が出ている。タイミングを見計らって、本人に臭いをやんわり指摘したが、自覚がなく取り合ってもらえない。同僚や他の上司に相談しても理解してもらえず、孤立感を感じている-。

 同様の相談は3年ほど前から、研究所に寄せられるようになったという。

 スメハラは、パワハラやセクハラと異なり法律で規制されておらず、多くの場合“加害者”には悪意どころか自覚もない。しかし「臭いの度合いによっては、周囲に我慢できないほどの不快感を与える」と研究所の金子雅臣所長は指摘する。被害の声が伝わりにくく、スメハラを苦に退職に追い込まれた例もあるという。

 覆面調査で臭い根絶

 男性化粧品メーカー「マンダム」(大阪市)が今年5月、東京・大阪で勤務する25~49歳の会社員など男女1028人を対象に調査した結果、6割以上が同僚などの体臭や口臭が気になると回答した。

 職場でスメハラに悩む人は増加傾向にあることを受け、マンダムは平成26年6月から企業向けに臭いのエチケットなどを指導するセミナーを無料で開催している。セミナーでは、30~50代の男性の後頭部などから出る「ミドル脂臭」や、50歳以降に本格化する「加齢臭」などを解説。臭いのサンプルを参加者が嗅いでもらうほか、予防法も講習する。

 企業の依頼が相次ぎ、これまでに2400人以上が受講した。マンダムは「体臭などを意識していなかった中年男性を中心に、臭いもケアするものだ、という気づきを与えた」(広報担当者)と話す。

 小売業やサービス業では、不快な臭いは営業に悪影響を与えるとの懸念も強くなっている。眼鏡の製造・販売を手がける「オンデーズ」(東京)は27年7月から、全国約120店の従業員の服装規定に「臭い」の項目を設け、人事評価に反映している。

 同社の覆面調査員が各店舗で、従業員の臭いを定期的にチェック。「出勤日の昼食で、ニンニクの入ったメニューを食べない」「昼食後は歯磨きをする」といった対策も指示しているという。

 人権侵害の恐れも

 一方で、臭いを気にしすぎる風潮も問題視されている。体臭の改善などにも取り組む五味クリニック(東京)では、ここ数年で相談に訪れる来院者が急増。だが、7割近くは臭いがないという。五味常明院長は「スメハラという言葉におびえるあまり、体臭に敏感になりすぎている」と指摘する。

 また、会社側が臭いについて従業員に注意すると「人権侵害につながる」という懸念の声もある。臭いは感じ方に個人差があり、体質が関係することもあるためだ。

 大阪弁護士会で労働問題を担当する冨宅恵弁護士には、臭いの強い従業員への対応のあり方について経営者から相談が寄せられるという。冨宅弁護士は「臭いを発するのが女性の場合もあり、上司が注意するとセクハラになると心配する声も多い」と話す。

 企業経営者には、適切な職場環境を保つ義務がある。ただ、スメハラ対策は一歩間違えると別のハラスメントにつながる危険もあり、経営者の悩みは増えそうだ。

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