「室町本」に熱視線 現代に重なる!?中世史が面白い

広角レンズ
『応仁の乱』や『観応の擾乱』など“室町本”を店頭に積む書店も=東京都千代田区の三省堂書店神保町本店

 日本史の2大売れ筋ジャンルといえば、戦国時代と幕末。そんな出版界の“常識”に、最近異変が生じている。従来それほど人気があるとはいえなかった室町時代を扱った硬派の歴史書が、相次いでベストセラーとなっているのだ。その背景は-。(磨井慎吾)

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 「もともと、2万~3万部も売れればいい方かなと思っていた。こんなに売れたのは完全に想定外」

 そう語るのは、昨年10月に刊行された『応仁の乱』(中公新書)の著者で国際日本文化研究センター助教の呉座勇一さん(37)。室町後期に発生し、名のみ高いが実態はあまり知られていない大乱を畿内中心に描いた同書は、8月末に41万部に達した。

 中公新書は特に歴史ジャンルの充実で知られるが、その歴史物の中でも昭和59年刊の『元禄御畳(おたたみ)奉行の日記』(神坂次郎著、41万8千部)に迫る歴代2位の部数になるという。

 呉座さんは大ヒットの背景について「分からないというのが正直なところだが、強いて言えば読者が現代と重ねているところがあるのでは」とみる。「応仁の乱では登場人物がみな読みを外し、想定外の事態に右往左往している。織田信長や坂本龍馬のような英雄が乱れた世の中を主体的に立て直すストーリーよりも、現代社会ではそちらの方がリアルに感じられ、共感されたのではないか」

 ◆マイナーにも光

 『応仁の乱』の好調を受け、室町時代のよりマイナーな戦乱を扱った本もベストセラーになっている。

 同じ中公新書から7月に刊行された『観応(かんのう)の擾乱(じょうらん)』は、室町幕府の草創期、征夷大将軍である足利尊氏と政務の大半を担った弟の直義(ただよし)の対立を軸に生じた内乱をテーマに、6万8千部という硬派歴史書としては異例のヒット作となった。

 著者で国立台湾大学助理教授の亀田俊和(としたか)さん(43)は「これまでの歴史研究者は、日本中世史が持つ面白さを一般向けの本で伝えることにあまり熱心でなかった」と指摘。その上で「近年、呉座さんや(山梨県立中央高校教諭の)平山優さんらSNSで積極的発信を行う歴史家の本がいくつも刊行され、中世史の面白さに気づく人が増えてきていた。『応仁の乱』はそうした蓄積の上でヒットし、その流れで私の本も背中を押してもらったのでは」と分析している。

 ◆大家から“応答”

 若手歴史学者による室町本の反響を受け、大家からの“応答”も出ている。

 講談社選書メチエは10月、享徳3(1454)年に関東地方で生じ、30年近く続いた大規模な内乱をテーマとした『享徳の乱』を刊行する。著者は東京都立大名誉教授で中世東国史研究の泰斗、峰岸純夫さん(85)。昭和30年代に「享徳の乱」という歴史用語を提唱し、定着させた本人でもある。戦国時代は応仁の乱より13年早く関東で始まり、応仁の乱自体も実は享徳の乱が波及して起きたもの-というのが、峰岸さんの年来の主張だ。

 担当した講談社の横山建城さんによると、構想は約20年前にさかのぼり、初稿は昨年に完成。「『応仁の乱』の便乗企画では全くないが、この時期の出版にこぎつけた背景に同書の影響があったのは確か」(横山さん)。峰岸さんは「関東を無視して応仁の乱は語れない。戦国時代の始まりは応仁の乱、という“国民的常識”を覆したい」とねらいを明かす。

 ◆歴史小説パス?

 ヒットした室町本に共通するのは、教科書クラスの大きな事件を扱いながら、今まで一般向きの手頃な本が見当たらなかった点だ。

 「源平期と戦国時代は人気だが、その間の室町時代についてはよく知られておらず、知りたいという潜在的ニーズは大きかった」と語るのは、作家の伊東潤さん。観応の擾乱の中心人物の一人で、室町幕府初代執事の高(こうの)師直(もろなお)を主人公にした小説『野望の憑依者(よりまし)』(徳間時代小説文庫)を7月に刊行した。

 「いま一般の人が歴史への興味を満たす場合、歴史小説をパスして歴史新書に向かっている」と、歴史小説が担っていた需要を新書が吸収した結果だと読み解く。そうした悩ましい面もあるが、「一連の室町本のヒットで、小説の題材選びの範囲がいわゆる売れ筋以外に広がった。歴史作家としては非常に勇気づけられている」。『応仁の乱』を起爆剤にした室町本ブームは、他ジャンルにも波及してしばらく続きそうだ。

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