将来不安解消の経済学改革 消費を動かす政府代替貯蓄

論風

 □上智大学教授・大和田滝惠

 経済が長年停滞し、回復力が弱い最大の原因は、人々が将来不安からおカネを使わず、個人消費が盛り上がらないからだ。将来不安の中身は2つ。収入が増えていく見通しが立たないことと、社会保障への不安である。

 1つ目の収入では、経済回復には賃上げが鍵を握るとよく言われるが、賃上げの鍵は金額と継続性だろう。勤労者の大半を占める中小企業従業員や非正規労働者は微々たる賃上げであり、今後も続くかどうか分からない。企業に内部留保を取り崩させ、賃上げを先行させることで経済の好循環が作り出せると主張する識者もいるが、まず消費が増えないと収益の先行き不安があるため持続的な賃上げはできない。

 2つ目の社会保障では、特に公的年金の先細りが予想され、老後に備えて若い時から消費を手控えて貯蓄をする人たちが増えている。少子高齢化でも安心できる持続可能で実現性のある社会保障の将来像を打ち出し、若い時から消費を控えるほどの貯蓄を自らしなくてもよいというシグナルを国民に示していく責任が政府にはある。それほど貯蓄の必要がなくなれば収入はもっと自由に消費に回せる。

 米欧でも同様の現象

 経済回復が緩慢で、賃金の上昇につながっていないのは、日米欧に似通った現象となっている。元米財務長官のローレンス・サマーズ氏が長期停滞論で指摘したように米欧でも人々は将来が不確実なことの不安から貯蓄を過剰にしたがり、消費を手控えている。世界的に金利が下げられていき、人々は貯蓄をしないはずだと考えられたが、それでも貯蓄は増えて消費が低調なことも、金融政策の限界を表している。

 大幅な量的緩和を実施しても景気がぐーんと持ち上がらないのは、人々も企業も将来不安を拭えないというのが最も大きい。財政出動も繰り返され、減税や給付は必要ではあっても、将来不安の中では効果は限定的であった。金融や財政で景気を刺激する経済学の処方箋は通用しなくなってきた。成長戦略も成否が確かでなく、効果があっても経済回復までには時間がかかる。

 おカネを使ってもらうには

 低迷した経済をどう抜け出したらいいのか、現行経済学に正解がなく、よりどころとなる対策が出てこない。今、一番やるべきことは、将来不安はどうしたら取り除けるのかに的を絞ることだ。ここを解決しないと、どんな政策をやっても効き目は薄い。賃上げの継続は困難だし、現行年金の拡大や最低年金の創設など社会保障改革は難しい。現状、人々の将来不安を解消する方法は見当たらない。政治家も識者も現金をただ給付することと、そのための財源として税を取ることしか考えていない。もっと構想力をもって制度から何かを新たに生み出すことを考える発想に転換しなければならない。

 いわゆる使われていないおカネを動かす必要がある。政府統計で貯蓄を持たない国民は3%台に過ぎず、低金利下で普通預金やタンス預金が年々増えている。高齢者の金融資産も相続で現役世代に移行する。国民の手持ち金を使ってもらうには政府が国民一人一人のために生涯増え続ける貯蓄をすることが最も効果的で、老後安心できる貯蓄金額となるよう制度設計すると、将来不安が解消し政府代替貯蓄の分、国民は自分たちのおカネを使う気になれる。国民全体の将来不安への対処だから、全員が満足する制度でなければ効果がないため、どの人も毎日支払う消費税を積み立てていく貯蓄制度しかない。逆進性を調整した再配分の還付率にすれば、低所得層にも将来、当てになる累積金額が期待でき、多めの買い物を促す。財源に経年平均0.5%未満の追加成長が必要で、国民1人当たり1%消費を増やせばいい。将来不安が解消すれば日常的に食品などの品質改善余地はあり、生活水準向上意識から消費意欲は持続する。現行消費税収を使わず、消費税の枠組みだけ活用する「消費税積立貯蓄制度」を提唱する。

【プロフィル】大和田滝惠

 おおわだ・たきよし 上智大学国際関係論博士課程修了。外務省ASEAN委託研究員、通産省NEDOグリーンヘルメット調査報告委員会座長などを歴任。著書に『文明危機の思想基盤』、経済論文に「ヴィジブルな社会への経済政策」など多数。専門は社会哲学。66歳。東京都出身。

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