「動画依存症」にご注意を 自分の頭と言葉を使ってこそ増す説得力

 

【安西洋之のローカリゼーションマップ】

 可視化が大事、と言われる。言葉だけでなく画像あるいはカタチで示すことが重視される。ソーシャルメディアでも画像・動画の影響力が評価される。

 「文章なんて書いても人は読まないよ」「言葉の説明では限界がある」

 このようなセリフの功罪を考える機会があった。この1週間、欧州の人たちを連れ、数々の日本企業を訪問した。そこで各社でプレゼンを拝見した。

 パワーポイントのスライドが定番なのは言うまでもない。

 パワーポイントは言ってみれば、既にあるフォーマットを踏襲する安心感がある。それだけではない。ホワイトボードに手書きでチャートを描くのは、その場で才能が見透かされるのではないか、と不安だ。もしかしたら間違った漢字を書いて失笑される危険性もある。事前にパワーポイントを準備するのは、これらの心配を取り除いてくれる。

 ただ、あまりにパワーポイントのスタイルに依存し過ぎるのはよくない、と最近はあえてパワーポイントを使わないプレゼンも増えてきている。ホワイトボードを使ってラフな図やキーワードを手書きしていく。

 さて今回の経験で気づいたのは「動画依存症」ともいうべき現象だ。動画の使い過ぎである。一つの現象なりを言葉で説明しづらいから動画でポイントだけを見せるのなら問題はない。

 疑問に思ったのは、いわゆる公式のプロモーションビデオを最初から最後まで見せられる。全体の説明のために冒頭に使うのではなく、質問に答えるにあたり3-5分のビデオを見せるのだ。

 肝心なポイントは30秒から1分である。

 およそ決まり文句が並び勢いのある曲が流れる。内容が微妙に違うこの類のビデオを同じ会社で複数回見る羽目になった。複数の会社で経験した。

 これはどうもおかしい、とぼくは考え始めた。

 動画は短い時間でインパクトを与える仕掛けがされている。それもメッセージを伝える映像の専門家が作ったものが多い。だから人はどうしても、その能力に頼ってしまう。

 「自分の言葉で説明するより、ずっとマシなはずだ」と考えている節がある。

 結果として自分の言葉に自信を失いつつあるのではないか、とぼくは勘ぐった。ただでさえパワーポイントで自己表現力が低下しているところに輪をかけて足を引っ張っている。

 インパクトのある手段を選択しようとすればするほど自分の表現力が低下していき、動画が「浮いた存在」になってしまう。そして動画との距離を補えない。

 便利なものが普及すると従来からの手法を扱えなくなるのは、既に現代人が石や木で火をおこせないことをはじめ、よくある現象である。ぼくが思ったのは、動画を紹介している本人がその罠に嵌っていることをまだ気がついてなさそうなのが問題ではないか、ということである。

 パワーポイントについては前述したように、自らの表現力を取り戻そうとの意識が一部の人たちの間では芽生えている。しかし、動画はまだではないか。

 今回、色々な企業の方のプレゼンから感じたのは、自分の言葉をもっている企業や人は圧倒的に強い、ということである。それも自然に自分の言葉を持ったということはあまりなく、借り物の考え方・言葉を意識的に排除してきたために自分の言葉をもつ文化ができたところが強い。 

 動画は万能感が漂っている。だからこそ、その万能ぶりに振り回されない工夫がどうしても必要なのだ。もう一度動画の内容を自分の言葉だけで説明してみる練習をするだけでも良いかもしれない。

 往々にして「既存の存在感がありそうなもの」に人は弱い。どうしても軽くなびく。自分の頭で考えたことこそが一番説得力がある、とのシンプルな事実を忘れやすい。

 自分の頭と言葉こそが最高の「武器」である。武器とは物騒な言葉で本当は差し控えたいし、「借り物感」がある。ぼくも自省せねば…。(安西洋之)

【プロフィル】安西洋之(あんざい ひろゆき)

上智大学文学部仏文科卒業。日本の自動車メーカーに勤務後、独立。ミラノ在住。ビジネスプランナーとしてデザインから文化論まで全方位で活動。現在、ローカリゼーションマップのビジネス化を図っている。著書に『デザインの次に来るもの』『世界の伸びる中小・ベンチャー企業は何を考えているのか?』『ヨーロッパの目 日本の目 文化のリアリティを読み解く』 共著に『「マルちゃん」はなぜメキシコの国民食になったのか? 世界で売れる商品の異文化対応力』。ローカリゼーションマップのサイト(β版)フェイスブックのページ ブログ「さまざまなデザイン」 Twitterは@anzaih

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異文化市場を短期間で理解するためのアプローチ。ビジネス企画を前進させるための異文化の分かり方だが、異文化の対象は海外市場に限らず国内市場も含まれる。

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