島根発 最先端ICT教育が離島の課題を解決 隠岐島前高校魅力化プロジェクト

IT風土記
海士町の玄関口、菱浦港

 島根県の隠岐諸島にある海士町(あまちょう)が取り組む教育による町おこしが注目を集めている。島にある県立隠岐島前(おきどうぜん)高校の生徒たちの学習支援のため公立の学習塾を設け、最新のテレビ会議システムを活用して「遠隔授業」を行うなど独自教育プログラムを展開し、町の活性化の大きな原動力になっている。

 600キロ離れた高校との討論

 海士町は隠岐諸島の西側にある島前三島の一つ、中ノ島にある小さな町だ。島の玄関口である菱浦港近くに島前の3町村が運営する公立の学習塾、隠岐國学習センターがある。築100年の古民家をリニューアルした木造の建物はどことなく昔の寺子屋を彷彿とさせる雰囲気だが、ここで最新のICT(情報通信技術)を使った授業が行われている。

 「今回のテーマはODA(政府開発援助)です。インドネシアとアフリカのルワンダ、どっちの国を優先させるべきだと思いますか。その理由も考えください」

 隠岐國学習センターが宮崎県えびの市の県立飯野高校と7月に行った「遠隔授業」だ。センターにいる隠岐島前高校の生徒たちの前には、壁2面にL字型に備え付けられているスクリーン。画面の向こうには飯野高校の生徒たちの姿がみえる。講師が投げかけたテーマで双方の生徒たちが意見を述べ合った。

 授業に利用されているテレビ会議システムは、2つのカメラで教室の左右2面を撮影したものをL字スクリーンに映し出す。プロジェクションマッピングの技術を応用して、スクリーンに映し出された映像は立体感がある。海士町と飯野高校は600キロも離れた距離にあるのだが、まるで同じ教室の中で授業をしているように見える。

 参加した隠岐島前高校2年の加藤千翔(ちか)さんは「飯野高校の生徒たちは説得力のある内容で、すごい刺激になりました。自分にない考えを知るきっかけにもなりました」と語る。

 離島の高校の魅力を高める

 隠岐國学習センターは2010年6月、廃校の危機にあった隠岐島前高校を全国から生徒が集まる魅力的な高校にするため、海士町など隠岐島前地区の3町村などが取り組んだ「隠岐島前高校魅力化プロジェクト」の一環として設立された。

 隠岐島前高校の入学者数は2008年度にはわずか28人まで減少。統廃合の基準(21人)にぎりぎりの水準だった。「高校が廃校すれば、若者たちが島から離れてしまう。このままでは島は衰退するだけ。それだけは阻止しないといけない」と当時海士町の財政課長だった吉元操総務課長は、高校の存続に奔走。島前三町村の関係者を巻き込み、プロジェクトを立ち上げた。

 高校の魅力を高めるため、離島が抱える課題を教育テーマにするなど離島の特性を生かした独自の教育プログラムを設定。全国から「島留学」の募集を始めた。学力差が大きい生徒が集まる一方、教員の数が限られるという離島の高校が持つハンディを克服するため、公立塾の開設にも踏み切った。

 地域ぐるみのプロジェクトは大きな成果を上げ、全国から留学希望者は年々増加。今では募集定員の2倍以上の応募があるほどだ。08年に約90人だった生徒数は現在約180人と2倍に増加。5割程度だった大学や専門学校などへの進学率も現在は7割に高まったという。

 「グローカル人材」の育成を目指す

 特に遠隔教育をはじめとするICTの積極的な活用は高校の魅力化の大きな原動力になっている。高校と学習センターには約100台のiPadが配備されており、大型ディスプレーとiPadを連動させた指導も行われている。天候不順で学校に通学できなかった中学校の生徒たち向けの補助指導にもiPadが役立てられている。

 学習センターの中山隆副センター長は「島の子たちは限られた人間関係の中で生活をしています。人間関係が固定化され、刺激がない。離れた高校の生徒たちとディスカッションすると、仲間同士で通じることが相手には通じない。自分の中の当たり前のことがそうでないことに気づく。そのことに疑問を感じ、その疑問を埋める。地域や人によって考え方が違うことが分かります。島の生徒たちの人間形成の上で大きな刺激を与えているのです」と語る。

 中学時代から学習の支援を受けてきた島前高校2年の青山みずほさんに将来の夢を聞くと、「大学に進学して、一級建築士の資格を取りたい。世界の有名な建築物を勉強して世界的にも注目されるような建築物を設計したい」という答えが返ってきた。

 島前高校や学習センターが目指すのはグローバル(世界的)なセンスとローカル(地域的)なセンスを兼ね備えた「グローカル人材」の育成だ。「以前は、欧米に引っ張られ、東京に引っ張られ、島根県に引っ張られ、最後尾にいた海士町ですが、最先端の課題解決を進め、そのモデルケースになることで日本を引っ張るタグボートになりたい」。中山センター長はプロジェクトの取り組みからそんな夢を抱いている。

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