日本の記憶…ノーベル文学賞のカズオ・イシグロ氏「5歳まで母の日本語を聞いていたので女性の日本語は分かる、男性のは…」

 
ノーベル文学賞の受賞が決まり、笑顔で取材に応じるカズオ・イシグロ氏=5日、ロンドン(ロイター)

 今年のノーベル文学賞に決まった長崎市出身のカズオ・イシグロ氏(62)。代表作「わたしを離さないで」は、日本で舞台やテレビドラマになるなど、国内でも親しまれている。日本人の名前と顔をもつ作家は、5歳まで暮らした日本での記憶を懐かしむかのように、初期の作品の舞台に日本を選び作家人生をスタートさせた。

 「今回日本に来てすごく思うのは、物語自体が非常に日本的ではないかということ。命のはかなさとか、そういうことが非常に日本的ではないか」

 平成23年1月24日、東京都千代田区の英国大使館。映画「わたしを離さないで」の原作者として来日し記者会見したカズオ・イシグロ氏は、こう英語で書かれた自作を振り返った。

 同作は臓器の提供者として長くは生きられない若者たちを描いた物語。そんな悲しくもはかない設定に、日本的な意識が流れていることを気づいたのだという。来日は10年ぶりだった。

 会見では、日本に着いてすぐ、東京・両国国技館に相撲を観に行ったエピソードも。「街を歩いていると、昔見た懐かしい(日本の)記憶がよみがえってくる。(他の)外国とは違う何かがあります」と感慨深げに語り、日本人としてのルーツを再確認しているようだった。

 1時間にわたり通訳を介して英語で行われた会見の最後では、「最後にみなさんにぜひおわびしたいのは、日本語がもっともっとできたら直接お話してこんなに時間をかけないですんだんですけど。理解力とか発言力が足りないので、みなさんにご迷惑をかけたことを、おわびします。日本語で直接お話できればよかったのですが」と苦笑い。

 司会の女性から「だいたい日本語はお分かりになるんですよね? 言っていることは?」とふられると、「5歳まで母の日本語を聞いていたので、おかしいことに女性がしゃべる日本語は分かるんです。男性のはまったく分からないんです」と英語で語り、会場を沸かせた。

 毎年、ノーベル文学賞の有力候補に名前が挙がる村上春樹氏とは、互いにファンを“公言”していることでも知られる。イシグロ氏は以前、文芸誌のインタビューで、村上氏について「もっとも興味ある作家の一人」と称賛。その理由について、「(村上氏は)国を超えた作家であり、現代文学の中で非常に関心を引く何かを象徴している。世界中の人は、日本文化に必ずしも関心がなくても、村上春樹に通じるものを感じる」などと語っていた。

 一方の村上氏も、平成27年にインターネット上に開設した期間限定サイト「村上さんのところ」で、「本が出たら必ずすぐ読むのはカズオ・イシグロと(米作家の)コーマック・マッカーシー」と語り、イシグロ作品のファンだということを明かしていた。

 カズオ・イシグロ氏の小説は映画化された作品も多く、日本にファンも多い。

 1993年の「日の名残り」は、米アカデミー賞で作品賞をはじめ8部門にノミネートされ、世界的に評判を呼んだ。「わたしを離さないで」は、2010年東京国際映画祭でも上映された。この作品は14年に蜷川幸雄氏の演出で舞台化されたほか、16年には綾瀬はるかさん主演でテレビドラマになったことでも知られる。

■イシグロ氏に世界から称賛の声 中国ハルキストは落胆 「村上に不満でもあるのか」

■イシグロ氏、もう一つの故郷が原動力 「いつか帰国するかもと思い生きてきた」

■イシグロ氏、来日時にルーツ再確認 村上春樹さんとは互いにファン公言

■新たな「レンズ」通し「記憶」と向きあう 「忘れられた巨人」著者 カズオ・イシグロさん

■【書評】『忘れられた巨人』カズオ・イシグロ著、土屋政雄訳

■ノーベル文学賞にカズオ・イシグロ氏

Read more