大阪市東住吉区の映画館「タナベキネマ」が3月31日で閉館する。小さな“街の映画館”だが、常連客からは「寂しい」との声も上がる。映画配給のデジタル化が進むなか、新たな設備資金を捻出できず、55年の歴史に幕を閉じることになった。
運営会社「大弥」(だいや、同市中央区)は、天神橋筋六丁目(同市北区)の映画館「天六ユーラク座」も30日に閉館。市民の小さな楽しみが、街から姿を消す。
タナベキネマは昭和32年に開館。スクリーン1つ100席だけの映画館だ。公開から時間がたった邦画や洋画を2本立てで上映することが多く、大人1600円の入場券1枚で2本の映画を観賞でき、地元の映画ファンが多く集まった。支配人を務める岡秀生さん(55)は27年間、同館で映画上映に携わっている。
「寂しいはずなのに、まだ実感がわかない」と岡さん。数年前からデジタル化が急速に進行し、35ミリフィルムで配給される作品が少なくなり、1台1千万円前後する映写機を入れ替えることができず、やむなく閉館になったという。
月2回ペースで20年以上通う椋本正利さん(52)は「1人になりたいときによく来た。行くところが無くなってしまう」と話した。最後の上映は31日午後2時55分から。岡さんは「最後まで気を抜かずにお楽しんでもらう。涙はその後です」と語った。