「ある市場で成功するにはローカルの人に任し切るのが良いということですが、その見極めのポイントは?」
ぼくはこう答えた。
「自分が分からないということを分かることです。ぼく自身を顧みると、その国のことが『分からない』と自覚するには最低7-8年、その土地でのビジネス経験が必要だと思います」
そのうえで、こう付け加えた。
「ざわついたレストランでちょっと離れたテーブルで話しているイタリア人同士の会話の内容が、何気なく言葉として耳に入ってくるかどうか。自身の言葉の才能のなさを晒すようですが、ぼくは自信ないです。日本語ならこっちが別の会話に集中していても、向こうのテーブルの噂話がキーワードや声の調子で自然と分かるんですけどね。この例のように、外国語の場合は受け取れる情報の量に圧倒的な差があるわけです」
こういう経験からだけでも、お客さんのフォローは現地の人に任すのがいいと痛切に思うわけだ。オフィスのミーティングテーブルで向き合っているだけではなかなか実感しづらい「敗北感」である。
どこまでなら分かり、どこから白旗をあげるか。努力することや好奇心を持ち続けるのをやめるべきではないが、「これ以上の深追いは趣味の領域」と見切ることもビジネスでは大切だ。