科学や歴史にまつわる海外作品を集めた新潮文庫の「サイエンス&ヒストリー」シリーズが静かな反響を呼んでいる。数学や医療などがテーマだが、人間を描く読み物で専門知識がなくても楽しめる。知的好奇心を満たせる骨太なドキュメンタリーを集めたことが人気につながっているようだ。
シリーズ誕生のきっかけは、英BBC記者、サイモン・シンの『フェルマーの最終定理』(青木薫訳)だ。数学界最大といわれたこの難問への360年にわたる世界中の挑戦と英国の天才数学者、アンドリュー・ワイルズによる完全証明までを追ったドキュメンタリーは世界中でベストセラーになり、日本でも売れ続けているという。
昨秋以降、ノーベル経済学賞を受賞したジョン・ナッシュの生涯を描き、ラッセル・クロウ主演で映画化もされた『ビューティフル・マインド』(シルヴィア・ナサー著、塩川優訳)、「どんな地図でも4色で塗り分けられる」という有名な定理の証明を追った『四色問題』(ロビン・ウィルソン著、茂木健一郎訳)などが刊行された。「欧米はサイエンスライターが成熟していることもあり、読み応えのあるドキュメントが多い。レーベルにしたことで書店でも見つけやすくなったせいか、予想以上の反響をいただけた」(同文庫編集部の北本壮さん)
3月末には、山岳遭難など極限状況におかれた際に奇跡を導く存在を追った『サードマン』(ジョン・ガイガー著、伊豆原弓訳)が刊行される予定という。